8月にアント・グループの上場申請が受理されて以降、翌9月に入ると金融当局の動きが活発になっている。もとより、プラットフォームを活用した新しいデジタル金融は、既存の金融規制に馴染まない。加えて、次々に発表される新しいオンライン上の金融商品や、10億人という顧客
5を背景とした急速な拡大を前に、金融当局側の規制の整備、監督・管理が追い付いていない点は拭えない。
9月7日、保険事業を監督する中国銀行保険監督管理委員会(銀保監会)の非合法金融活動取締り局が『保険業リスク観察』
6に、「非合法の民間保険活動の分析及び対策提案の研究」とした内容の文書を発表した。当局がこのタイミングで、このような文書を掲載する時点で、監督管理上、大きな問題意識を有しているものと考えられる。
内容としては、最近の非合法の民間保険活動の特徴として、(1)デジタル化の急速な進展、(2)隠匿性が高く、発見されにくい、(3)社会に甚大な危害を与えるリスクを抱えている、の3点を挙げている。
また、その取締りにおける課題として、(1)中央の監督当局、地方の金融当局、地方政府など地域や組織によって問題への認識や対処が異なること、(2)規制や規定など制度体系が整備されていないこと、(3)調査や証拠の収集が難しく、関係する当局を跨いだ調整が難しいことを挙げている。
文書としては、保険事業全体について触れているが、社会に甚大な危害を与える内容として、相互宝、水滴互助の商品実名を挙げて指摘しており、その意図は明白であろう
7。指摘内容としては、相互宝、水滴互助とも保険経営の許可を得ていないこと、(水滴互助など)一部は事前に費用を徴収した上でプールしており、その資金が別途利用され、管理を正しくしなければ社会にリスクを与えるとしている。特に、相互宝などのプラットフォームを利用した金融サービスについては、‘4つの無’(監督官庁がない、監督・管理規制がない、業界基準がない、規範化されていない)の状態とした。なお、同一の文書は銀保監会の公式ウェブサイトにも掲載されているが、相互宝、水滴互助の名前は消され、「一部のプラットフォーマー」に変更されている
8。
また、当該文書では、上掲の問題点について、以下、4つの政策提案をしている。(1)地方政府、各担当当局、公安、銀保監会など地域や分野を跨いだ協力と情報の共有化・連絡システムの構築、(2)保険業協会による教育宣伝活動の強化や各当局との連携、保険会社による非合法活動におけるリスクの判別や公安への報告などの協力強化、(3)銀保監会、保険業協会、保険会社間の連携強化、消費者に対する保険の正しい知識の普及、(4)非合法の民間保険活動に関する厳格な取り締まりの実施である。
アリババ・グループのエコシステム(経済圏)、アント・グループが持つ金融エコシステムにおけるサービスは多岐にわたり、多くの事業分野を跨いだサービスを提供している。そこには、多くの監督官庁が関わることになるが、既存の縦割りの監督管理体制をどのように調整していくのかが大きな課題であろう。
また、保険事業の許可を得ずに経営を行っていると指摘された「相互宝」は、そもそも加入者が抱えるリスクを加入者間で分担する仕組みをとっている。アント・グループは管理費(給付総額の8%)を徴収するというスキームを採用しており、既存の保険会社に適用する規制には馴染まない。銀保監会は、こういったネット互助プランを「保険ではない」とし、これまでは管轄外とはしたものの、具体的にどこが監督・管理し、どのように規制していくかは宙に浮いた状態が続いている。
4――アント・グループ