中村 亮一()
研究領域:保険
研究・専門分野
5―これらの影響評価に関する協議文書等に対するInsurance Europeの見解
キーメッセージ
EIOPAは、「バランスの取れた結果」の達成を目指しており、金利リスク・サブモジュールを除き、欧州保険会社の総所要自己資本を増加させないことを目的とした技術的助言の提供にコミットしている。しかし、EIOPAはバランスのとれた結果が適切であるという証拠を提供しておらず、いずれにせよ、国及び欧州レベルでバランスのとれた結果の目的を達成すべきである。
逆に、Insurance Europeは、ソルベンシーIIは不必要に保守的であり、総資本水準の純減が正当化されると考えている。
HIA(全体影響評価)で検証されていない政策措置、例えばグループに対する政策措置は、バランスのとれた結果の一部として含めるべきである。同様に、IBOR(銀行間取引金利)の移行の影響も考慮されるべきであるが、そのような移行は、そもそもマイナスの影響を及ぼすべきではない。
EIOPAが、第2のHIAを通じて、COVID-19の影響を受ける市場状況下での潜在的な変化をテストしようとする試みを歓迎する。しかし、3月以降の金融市場の回復により、実際には前回とは大きく異なるデータセットが提供されない可能性がある。EIOPAは、ECに対する最終勧告の中で、提案が幅広い経済状況の下で実際に機能することを確保すべきである。例えば、2008年又は2011年の危機で経験したのと同様の市場状況の下で、提案の影響を評価すべきである。
特定の提案に関するコメント
RFR(リスクフリー・レート)の補外:Insurance Europeは、既存の補外方法とパラメータを引き続き支持している。マッチング基準と残存債券基準は、RFRの枠組みの重要な要素である。補外アプローチでは、これらの2つの基準をアンカーポイントとして維持する必要がある。
VA(ボラティリティ調整):EIOPAがVAに損害を与える非経済的な変化を追求し続けていることに失望している。
・リスク補正を変更する十分な根拠がない。既存の方法論は、危機後に発生するかもしれないデフォルトによる損失のレベルに関する懸念をカバーするのに十分に保守的である。EIOPAが当初の提案に少し手を加えただけでは、リスク修正が一般的なスプレッドの割合として設定されているという業界の強い信頼できる懸念に対処できない。さらに、この提案はフレームワークにおけるプロシクリカリティを増加させる。
・改正された流動性適用比率基準は依然として欠陥があり、業界は強く反対している。流動性は、第一の柱ではなく、第二の柱と第三の柱で取り扱うべきである。
・しかしながら、提案されているVAの変更のいくつかは、VAが低すぎて人為的なバランスシートの変動に十分に対応していないという業界の立場を反映しており、正しい方向へのステップとして歓迎される。これには、「再スケール係数」の追加、GAR(一般適用比率)の65%が低すぎるとの認識、強化された国の構成要素(オプション7)が含まれる。
リスクマージン:ラムダ係数を含めるというEIOPAの提案は正しい方向への一歩だが、このスカラーの較正が適切であることを保証するにはさらに作業が必要となる。EIOPAのリスクマージンに関する提案は、その過剰な規模とボラティリティに対処するには不十分である。ラムダの0.975という値は高すぎ、0.5という下限は適切に正当化されていない。EIOPAは、リスクマージンを次のように改善する必要がある。
・長期的なリスク依存性の影響をよりよく反映させるために、ラムダパラメータとその提案されたフロアを再調整する。
・同一会社内の生命保険事業と損害保険事業の間、又はグループ内の異なる企業間での分散化を認める。
・資本コスト率を3%に引き下げる。これは業界が提示している証拠に沿ったものである。
金利リスクSCR:EIOPAの提案は過度に懲罰的で非経済的である。標準式金利リスク要件は、金利の実効下限を適切に反映し、標準補外法を用いてストレス曲線の非流動性部分を計算しなければならない。
・データを要求する2つの「オプショナルな」構造も、業界の懸念を解決するには不十分である。特に、EIOPAが提案する金利の下限水準は、実効性がなく、金利の下限を反映していない。
動的ボラティリティ調整(DVA):Insurance Europeは、DVAが内部モデルの有効なツールとして認識され、DVAの標準式がテストされることを歓迎する。
・内部モデルについては、業界は、DVAプルーデンス原則の強化が追加的な不当な計算負荷と不安定なクリフ効果を生み出す可能性があることを懸念している。
・標準式については、提案されているアプローチは過度に保守的であり、ECの資本市場同盟の目的にとって有害な無格付債を除外している。
長期株式(LTE):EIOPAの改訂LTE提案は、LTEサブモジュールの範囲を拡大することは期待されておらず、そのため価値は限定的である。
・生命保険会社にとっては、流動性規制の不備や過度のデュレーション要件により、一部の長期年金 商品にしか適用されない。
・生命保険以外では、バイナリーアプリケーションアプローチと制限付きHQLA(適格流動資産)評価は、不必要にその使用を制限している。
自己資本バッファー:信用スプレッドが過度に圧縮された場合に適用される追加的な裁量的バッファーを含めることは不要であり、システミックリスクに対処するための追加的な資本アドオンを効果的に創出する。Insurance Europeはこれに強く反対している。
非比例再保険:Insurance Europeは、非比例再保険を損害保険料リスクで認識するための代替的なアプローチのテストを歓迎する。しかし、これを実行可能な解決策にするために克服する必要があるいくつかの技術的課題が残っている。
6―まとめ