コラム

新型コロナによる日本の経済損失は中国よりも小さい?~平常時の成長率の違いがコロナ禍の経済動向を左右~

2020年11月26日

(斎藤 太郎) 日本経済

日本はコロナ禍からの回復率は低いが、累計の経済損失は欧米よりも小さい

2020年7-9月期の日本の実質GDPは前期比年率21.4%の大幅プラス成長となったが、米国の同33.1%、ユーロ圏の同60.5%を下回った。日本のリバウンドが小さかった一因は、新型コロナウイルス感染症の影響を主因とした2020年1-3月期、4-6月期の落ち込みが欧米よりも小さかったことだが、コロナ禍の落ち込みからの回復率(1-3月期と4-6月期の落ち込み幅に対する7-9月期の増加幅)でみても、日本は52.2%にとどまり、米国の65.7%、ユーロ圏の70.7%に劣っている。コロナ禍からの立ち直りが早かった中国は2020年1-3月期こそマイナス成長となったものの、4-6月期にはプラス成長に転じ、回復率(1-3月期の落ち込み幅に対する4-6月期と7-9月期の増加幅)は132.4%に達している(図1)。
日本のコロナ禍からの回復ペースが諸外国よりも鈍いことは確かだが、新型コロナによる経済への影響を総合的に捉えるためには、2020年1-3月期以降の累積的な経済損失を見る必要がある。
そこで、2019年10-12月期の実質GDPの水準を基準として2020年1-3月期から7-9月期までの実質GDPの乖離幅を新型コロナによる経済損失とすると、日本は2020年1-3月期から7-9月期までの累計で▲3.3%(GDP比、以下同じ)となった。中国の▲1.6%よりは大きいものの、ユーロ圏の▲5.8%、米国の▲3.7%よりは小さいという結果となった(図2)。

平常時の成長率を考慮した日本の経済損失は中国より小さい

2019年10-12月期の水準を基準とした試算はシンプルで一般的な方法だが、経済損失を過小評価する可能性がある。なぜなら、新型コロナがなければ2020年1-3月期以降、実質GDPは一定程度成長していたはずだからだ。たとえば、平常時の成長率が前期比年率2%(前期比0.5%)の国では、2020年7-9月期の実質GDPの水準は2019年10-12月期よりも1.5%程度高くなっていたはずで、2020年1-3月期以降を横ばいとした場合よりも実際の実質GDPとの差(経済損失)は大きくなるだろう。
コロナ前の平常時の成長率として、2019年10-12月期までの実質GDPをHPフィルターで平滑化することによってトレンド成長率を求めると、2019年末時点では日本が前期比年率0.3%、米国が同2.3%、ユーロ圏が同1.4%、中国が同5.8%となった(図3)。日本は2018年11月から景気が後退しており成長率が低下する中で、消費税率引き上げの影響で2019年10-12月期の成長率が大きく落ち込んだため、トレンド成長率も大きく低下している。
各国・地域の直近のトレンド成長率で先延ばしした2020年1-3月期から7-9月期までの実質GDPと実際の実質GDPとの乖離幅を計算すると、トレンド成長率が高い国・地域ほど2019年10-12月期を基準とした場合よりも経済損失が大きくなる。2020年1-3月期から7-9月期までの累計の経済損失は日本が▲3.4%、米国が▲4.5%、ユーロ圏が▲6.3%、中国が▲3.7%である(図4)。2019年10-12月期を基準とした場合と比較すると、日本の経済損失が欧米よりも小さいことは変わらないが、中国の経済損失が日本を上回る結果となった。コロナ禍の中国の経済成長率は日本を大きく上回っているが、平常時の成長率との差が日本よりも大きいためである。

このように、日本はコロナ禍の落ち込みからの回復率は低いものの、平常時の成長率(トレンド成長率)を考慮した経済損失は、日米欧中の中で最も小さくなる。しかし、このことを手放しで喜ぶことはできない。今後起こりうる経済的なショックが同じだったとしても、日本経済の落ち込みが諸外国より大きくなる可能性が高いことを意味するからだ。憂うべきは平常時の経済成長率の低さのほうだろう。
 
 

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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎(さいとう たろう)

研究領域:経済

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴

・ 1992年:日本生命保険相互会社
・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
・ 2019年8月より現職

・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
・ 2018年~ 統計委員会専門委員

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