開発の主軸は「宿泊特化型ホテル」から「マンション」へ

2020年11月05日

(渡邊 布味子) 不動産市場・不動産市況

コロナ禍は、不動産市場にも大きなマイナスの影響を及ぼしている。用途別では特にホテル、インバウンド客向け店舗、飲食店舗等の収益低下が著しい。不動産の収益が低下すると不動産価格も下落するが、既に建物があり賃貸借契約の締結等により実際にキャッシュ・フローのある土地建物よりも、更地への影響はさらに大きい。

更地とは、建物や権利の付着がない土地のことをいう。更地には、オフィス・商業施設・ホテル・マンションなどの、異なった使用方法を前提とする投資需要が競合する。建築主は、これらの用途から、土地の場所や周辺環境等から判断し、利用・購入希望の多寡や、集客力などから見て、人々に求められ、最も高い価値を生み出す建物を選択するのが通常である。

更地と建築予定の建物に投資する場合、「将来どのような建物を建築するかを想定(以下、想定建物)」し、「実際はまだ存在しない建物の借り手や賃借料を予想して建物の収益等を見積り、価値を求める」こととなる。このようにして求めた「想定建物と土地の価格」が高ければ、開発費用も多く支出することができ、高グレードの建物の建築や、多くの利益の獲得が期待できる。ただし、ビルやマンションの建築計画は年単位となる。先行きがあまり見通せないなかでは、収益はより慎重に少なめに見積もられ、価格の低下幅も既存の建物があって一定の収益が実際にある場合よりは大きくなってしまうことが多い。価格の低下幅が大きくなり、建築主の利益が無くなれば、開発計画は実行されないことになる(図表1)。
交通利便性が高い高層のオフィスが集積するエリアにある大規模画地であれば、大型のオフィスや複合施設を想定し、高単価かつ広面積を賃貸するテナントとの契約を期待することができる。「想定建物と土地の価格」もかなり大きいものとなるだろう。また、これらのエリアではオフィスとして人気が高いため、想定建物は相対的に不動産市況の影響を受けにくい。例としては、東京の丸の内、大阪の淀屋橋、名古屋の名駅桜通口側といったエリアが挙げられる。

オフィスとしてはそこまで人気がなく、高層の建物が建築可能なエリアであっても、大規模の画地は希少である。しかし、法令上は建築が可能でも、必ずしも需要があるとは限らない。需要の大きさによっては大規模の画地よりも、中小規模の画地のほうが確実に利益を得られる場合もあるだろう。このようなエリアで利益を得やすい用途には、「宿泊特化型ホテル」「分譲マンション」「高級賃貸マンション」「投資用ワンルームマンション」が挙げられる。また、想定建物を何にするかは、その時の不動産市況にも影響を受けやすい。

コロナ禍前までは、増加する訪日外国人客を背景にして、都市部に多くの宿泊特化型ホテルが開発された。2012年は830万人であった訪日外国人客数は、2019年には3,180万人と約4倍となっており、宿泊業用の建物着工棟数も2019年には2012年の3.7倍となった(図表2)。また、中小規模の更地も「外国人観光客に知名度がある、駅前の、高層の建物が建築可能な立地」がホテル開発を前提に数多く取引されていた。例としては、東京の浅草、大阪の難波、名古屋の太閤通口側といったエリアが挙げられる。
2020年1月から8月の訪日外国人客数累計は、前年比▲82%まで落ち込んだ。各国で感染拡大が落ち着いて国境開放の目途がたてば、コロナ禍前の客数を見込むこともできるであろうが、それがいつになるのか見通せていない。供給過剰でホテルの収益は少なく見積もられる傾向にあり、「想定建物と土地の価格」の下落を通じて、ホテル建設への投資は難しくなっている。

一方、都市部へは人口流入が続いており、交通利便性の高いマンションへの潜在需要は継続するとみられる。感染症の感染拡大が落ち着くまでは、分譲・高級賃貸・投資用ワンルームなどの「マンション」が更地への想定建物の主軸となり、これらのマンション適地への投資が増加していくことになるだろう。

金融研究部   准主任研究員

渡邊 布味子(わたなべ ふみこ)

研究領域:不動産

研究・専門分野
不動産市場、不動産投資

経歴

【職歴】
 2000年 東海銀行(現三菱UFJ銀行)入行
 2006年 総合不動産会社に入社
 2018年5月より現職
・不動産鑑定士
・宅地建物取引士
・不動産証券化協会認定マスター
・日本証券アナリスト協会検定会員

・2022年、2023年 兵庫県都市計画審議会専門委員

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