米雇用統計(20年7月)-雇用者数は前月比176.3万人増、失業率は10.2%。回復のモメンタムは低下も予想は上回る

2020年08月11日

(窪谷 浩) 米国経済

1.結果の概要:雇用者数、失業率ともに回復のモメンタムは低下も、市場予想は上回る

8月7日、米国労働省(BLS)は7月の雇用統計を公表した。非農業部門雇用者数は、前月対比で+176.3万人の増加1(前月改定値:+479.1万人)と、+480.0万人から小幅下方修正された前月から雇用の伸びが大幅に鈍化した一方、市場予想の+148.0万人(Bloomberg集計の中央値、以下同様)は上回った(後掲図表2参照)。

失業率は10.2%(前月:11.1%、市場予想:10.7%)と、前月から▲0.9%ポイントの低下となり、前月(同▲2.2%ポイント)から低下幅が縮小した一方、市場予想を上回る低下幅となった(後継図表6参照)。労働参加率2は61.4%(前月:61.5%、市場予想:61.8%)とこちらは前月から▲0.1%ポイント低下し、上昇を予想した市場予想も下回った(後掲図表5参照)。
 
1 季節調整済の数値。以下、特に断りがない限り、季節調整済の数値を記載している。
2 労働参加率は、生産年齢人口(16歳以上の人口)に対する労働力人口(就業者数と失業者数を合計したもの)の比率。

2.結果の評価:労働市場の回復モメンタムは低下、懸念される新型コロナの影響

非農業部門雇用者数は前月比で3ヵ月連続の増加となったものの、7月の雇用増加ペースが6月から大幅に鈍化した結果、4月までの2ヵ月間で喪失した2,200万人の雇用に対して3ヵ月間の雇用増加数は928万人と、喪失分の僅か4割程度を回復するのに留まった。雇用回復のモメンタムが低下しているため、雇用水準が新型コロナ流行前に戻るには相当な期間を要そう。

失業率も3ヵ月連続で低下となったものの、低下幅は前月から縮小したほか、労働参加率が改善予想に反して低下するなど、家計調査も7月は回復モメンタムが低下した。
一方、時間当たり賃金(全雇用者ベース)は、前月比が+0.2%(前月:▲1.3%、市場予想:▲0.5%)と、▲1.2%から下方修正された前月、市場予想を上回った。前年同月比は+4.8%(前月改定値:+4.9%、市場予想:+4.2%)と、+5.0%から下方修正された前月を小幅に下回ったものの、市場予想を上回った(図表1)。

6月中旬以降、南部や西部の州を中心に新型コロナの感染者数が急増し、これらの地域では経済活動を再制限する動きがでていたため、労働市場への影響が懸念されていた。実際に7月の雇用増加ペースが鈍化するなど、新型コロナ感染の再拡大に伴い労働市場の回復モメンタムが低下したことが確認された。一方、7月統計の調査週(7月12~18日)以降も新型コロナ感染者数の増加に歯止めがかかっていないため、8月の回復モメンタムの更なる低下が懸念される。

3.事業所調査の詳細:娯楽・宿泊、小売りなどの雇用が引き続き大幅に増加

事業所調査のうち、民間サービス部門は前月比+142.3万人(前月:+422.2万人)と3ヵ月連続の増加となったものの、前月から増加幅が縮小した(図表2)。
民間サービス部門の中では、娯楽・宿泊が前月比+59.2万人(前月:+198.1万人)となり、サービス業雇用増加分の4割超を占めたほか、小売業も+25.8万人(前月:+82.7万人)と大幅な増加となった。また、その他の業種では、医療・社会扶助サービスが+19.1万人(前月:+46.3万人)、となったほか、人材派遣業が+14.4万人(前月:+14.4万人)と好調を維持したことから、専門・ビジネスサービスも+17.0万人(前月:+31.8万人)となるなど、これらの業種で増加が目立った。

財生産部門は前月比+3.9万人(前月:+51.5万人)と3ヵ月連続の増加となったものの、前月から伸びは大幅に鈍化した。製造業が+2.6万人(前月:+35.7万人)となったほか、建設業が+2.0万人(前月:16.3万人)と、いずれも前月から大幅に伸びが鈍化した。

一方、政府部門は前月比+30.1万人(前月:+5.4万人)と、こちらは前月から大幅に伸びが加速した。内訳をみると、連邦政府が+2.7万人(前月:横ばい)となったほか、州・地方政府が+27.4万人(前月:+5.4万人)と前月から大幅に伸びが加速した。これは、州・地方政府の教育関係者の雇用が+24.5万人増加した影響が大きい。BLSによれば、例年7月に雇用が減少する教育関連で、新型コロナの影響により雇用減少が7月以前に目倒しになった反動で、7月の季節調整値が大幅な増加となったようだ。
前月(6月)と前々月(5月)の雇用増加数(改定値)は、前月が+479.1万人(改定前:+480.0万人)と▲0.9万人下方修正された一方、前々月が272.5万人(改定前:+269.9万人)と、こちらは+2.6万人上方修正された。この結果、2ヵ月合計の修正幅は+1.7万人の上方修正となった(図表3)。
 
BLSの公表に先立って8月5日に発表されたADP社の推計は、非農業部門(政府部門除く)の雇用増加数が前月比+16.7万人(前月改定値:+431.4万人、市場予想:+120.0万人)と、+236.9万人から大幅に上方修正された前月、市場予想を大幅に下回った。雇用統計同様にADP統計も、雇用者数の伸びが前月から鈍化したものの、雇用者数の伸びが雇用統計に比べて1桁少ない伸びに留まるなど、7月は乖離が大きくなった。
 
7月の賃金・労働時間(全雇用者ベース)は、民間平均の時間当たり賃金が29.39ドル(前月:29.32ドル)となり、前月から+7セント増加した。一方、週当たり労働時間は34.5時間(前月:34.6時間)とこちらは前月から▲0.1時間減少した。この結果、週当たり賃金は1,013.96ドル(前月:1,014.47ドル)と、2ヵ月連続の減少となった(図表4)。

4.家計調査の詳細:労働力人口は3ヵ月ぶりに減少

家計調査のうち、7月の労働力人口は前月対比で▲6.2万人(前月:+170.5万人)と3ヵ月ぶりに減少した。内訳を見ると、就業者数が+135.0万人(前月:+494.0万人)増加したものの、失業者数が▲141.2万人(前月:▲323.5万人)と失業者の減少幅が就業者数の増加幅を上回り、労働力人口を押し下げた。非労働力人口は+23.0万人(前月:▲154.7万人)と、こちらも3ヵ月ぶりに増加に転じた。

これらの結果、労働参加率は61.4%とこちらも3ヵ月ぶりに低下した(図表5)。また、プライムエイジと呼ばれる働き盛り(25~54歳)のみの労働参加率も7月が81.3%(前月:81.5%)と前月から▲0.2%ポイント低下した。男女の内訳は、男性が87.6%(前月:87.9%)と前月から▲0.3%ポイント低下したほか、女性も75.1%(前月:75.4%)と▲0.3%ポイント低下した。このため、労働参加率からみた労働需給は、7月に回復が足踏み状態となったことを示した。
一方、BLSは過去4ヵ月と同様に本来失業者として認識されるべき人数の一部が欠勤として認識されていることによって、失業率が過小評価されている可能性を示唆した。BLSは、これらの人数が130万人程度と推計されるとしており、これを加味した失業率は11.1%と実際に発表された10.2%から+0.9%ポイント押し上げられる可能性があるとした。
 
7月の長期失業者数(27週以上の失業者人数)は150.1万人(前月:139.1万人)と前月から+11.0万人増加した。また、長期失業者の失業者全体に占めるシェアも9.2%(前月:7.9%)と前月から+1.3%ポイント増加した(図表7)。さらに、平均失業期間は17.9週(前月:15.7週)と前月から+2.2週長期化した。
 
最後に、周辺労働力人口(197.9万人)3や、経済的理由によるパートタイマー(844.3万人)も考慮した広義の失業率(U-6)4は、7月が16.5%(前月:18.0%)と前月から▲1.5%ポイント低下した(図表8)。また、通常の失業率(U-3)との乖離幅は+6.3%ポイント(前月:+6.9%ポイント)と、前月から▲0.6%ポイント縮小した。
 
3 周辺労働力とは、職に就いておらず、過去4週間では求職活動もしていないが、過去12カ月の間には求職活動をしたことがあり、働くことが可能で、また、働きたいと考えている者。
4 U-6は、失業者に周辺労働力と経済的理由によりパートタイムで働いている者を加えたものを労働力人口と周辺労働力人口の和で除したもの。つまり、U-6=(失業者+周辺労働力人口+経済的理由によるパートタイマー)/(労働力人口+周辺労働力人口)。
 
 

(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

経済研究部   主任研究員

窪谷 浩(くぼたに ひろし)

研究領域:経済

研究・専門分野
米国経済

経歴

【職歴】
 1991年 日本生命保険相互会社入社
 1999年 NLI International Inc.(米国)
 2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
 2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
 2014年10月より現職

【加入団体等】
 ・日本証券アナリスト協会 検定会員

レポートについてお問い合わせ
(取材・講演依頼)