放射線医療に入る前に、まず、放射線や放射能とはどういうものか、からみていくこととしたい。
1|一般の人が、放射線の医療への活用について学ぶ機会はほぼない
放射線について、学校ではどのように学習しているのだろうか。現在の学習指導要領によると、中学の理科では、電流とその利用に関する項目のなかで、放射線について学習することになっている。
そして、高校に進んで、物理の科目を選択すると、α線、β線、γ線、中性子線といった放射性物質に関する半減期などの基本的な性質や、放射線に関する単位について学ぶこととなる。そのうえで、医療、工業、農業等での利用状況など、放射線や原子力の利用と課題についても学習する。
その後、放射線の専門性を身に付けようと思えば、理工系や農学系もしくは医歯薬系の大学に進んで放射線物理や放射線医学を専攻する、もしくは医療系の専門学校に進んで放射線医療の実務を学ぶ、といった道が用意されている。
一方、放射線関係の仕事には就いていない一般の人が、放射線の医療への活用について、学ぶ機会はほぼない。ただし、健康診断や人間ドックなどで胸部X線検査等の放射線検査を受けたり、自分や家族ががんにかかって放射線治療を受けたりすることは、誰にでも普通に起こりうることだろう。
そこで、本稿では、そもそも放射線や放射能とはどういうものか、から概観していきたい。
2|放射線は、目には見えないが、高いエネルギーを持つ
まず、放射線についてみてみよう。いくつかの書籍をもとに、筆者がまとめてみたところ、放射線とは、「電磁波(電波、光など)や粒子などのうち、そのものが当たると、当たった相手の分子構造や原子・原子核などを破壊してしまうもの」といった説明が得られた。放射線は、目には見えないが、高いエネルギーを持っている。
そして、その放射線が、人間の身体に吸収されて、臓器、組織、細胞などに当たり、その構造を電離
1 させて壊してしまうことは、「被曝(ひばく)」といわれる
2 。
放射性物質とは、原子が不安定で、自然に壊れて(「放射性崩壊」や「壊変」などといわれる)、放射線を出す物質をいう。放射性物質が、放射線を出して放射性崩壊を起こす能力を、放射能という。
1 電気解離の略で、中性の原子や分子が電気を帯びた原子や原子団(イオン)に分かれることをいう。(「広辞苑 第七版」(岩波書店)をもとに、筆者がまとめた。)
2 「曝」は、常用漢字ではない。そこで、「被ばく」と表記することも考えられるが、その場合、爆撃を受けることや原水爆の被害を受けることを意味する「被爆」と混同してしまう恐れがある。このため、本稿では、「被曝」という表現を用いていくこととする。