前回の世界金融危機(The Global Financial Crisis)は、金融バブルの崩壊により「カネの流れ」が止まったことに起因する。コベナンツ条項抵触などによるデフォルトや貸し渋り・貸し剥し、不動産の投げ売りなどが発生し、不動産投資市場が大きなダメージを被り4、その影響は不動産賃貸市場にも波及した。それに対して今回の危機は、新型コロナウイルス感染症の拡大防止のため、「ヒトの流れ」が止まったことに起因する。ヒトの流れが賃貸収入の源泉となっていたホテルや商業施設は深刻な影響を被る一方、eコマース拡大やテレワークなどデジタル化により恩恵を受ける物流施設やデータセンターへの注目が高まるなど、不動産セクター間の格差が強まっている。
ホテルの稼働は壊滅的な状況である。2020年5月の日本の延べ宿泊者数は前年同月比▲84.8%、うち日本人は▲81.6%、うち外国人は▲98.6%の減少となった。新型コロナウイルスの感染拡大は1月に中国で急増した後、2月以降は韓国やイタリアなどにも波及し、グローバルな拡大を見せた。入国規制が厳格化され、国内でも県をまたいだ移動の自粛が要請されるなか、ホテルの宿泊需要が急減した。2020年7月22日に開始されたGo To Travelキャンペーンを宿泊需要復活への起爆剤として期待されるが、新型コロナウイルス感染拡大の終息の見通しは立たず、予断を許さない状況が続いている。