キャッシュレスを学ぼう(3)-資金移動業

2020年05月29日

(松澤 登) 保険会社経営

■要旨

資金決済法は政令で定める金額(100万円)以下の為替取引を資金移動業者に認めている。為替取引とは隔地者間(対面ではない人の間)で現金の送付によらず、送金を仲介するものとされている。
 
資金移動業者は、内閣総理大臣の登録を受ける必要がある。適用される規制としては、資金移動業者には十分な財政的基礎があり、適切な業務運営を行える体制を整えている必要があるほか、要履行保証額(送金途上にある利用者の資金)の全額を保全しなければならない。資金移動業を主業務とする業者に加え、QRコード決済業者の中にも、資金移動業の登録を経て、チャージ金額の個人間送金・払い出しが自由にできるようにしている業者も出てきた。
 
今国会(第201通常国会)では、資金決済法の改正案が審議されている。それによると、新たに第一種、第二種、第三種の資金移動業を設けることとされている。第一種資金移動業は登録の上、さらに認可を得る必要があるが、送金額の上限100万円以下という制限は課されなくなる。現行より厳格な体制整備義務のほか、送金目的以外の資金の受け入れや、必要な期間を超えて資金を滞留させることは禁止される。
 
第二種資金移動業は現行の資金移動業と同じ資金移動業を行うもので、ほぼ現行同様の規制が適用される。また、第三種資金移動業は送金額の上限を数万円程度に限定する代わりに、要履行保証額の保全義務は求められず、利用者資金を自己資金と分けて預金することだけが求められる。
 
為替取引は取引自体が生み出す収益のほか、決済情報として価値を生み出す源泉となる。制度改正にあわせたビジネス展開が期待される。

■目次

1――はじめに
2――資金移動業とは
  1|資金移動業にはどのようなものがあるか
  2|資金移動業の現行規制
3――資金移動業にかかる規制改正の概要
  1|高額送金を取り扱う事業者(第一種資金移動業)の新設
  2|現行規制を前提に事業を行う事業者(第二種資金移動業)に対する規制改正
  3|少額送金のみを取り扱う事業者(第三種資金移動業)の新設
  4|収納代行についての規制
4――おわりに

保険研究部   専務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長

松澤 登(まつざわ のぼる)

研究領域:保険

研究・専門分野
保険業法・保険法|企業法務

経歴

【職歴】
 1985年 日本生命保険相互会社入社
 2014年 ニッセイ基礎研究所 内部監査室長兼システム部長
 2015年4月 生活研究部部長兼システム部長
 2018年4月 取締役保険研究部研究理事
 2021年4月 常務取締役保険研究部研究理事
 2024年4月より現職

【加入団体等】
 東京大学法学部(学士)、ハーバードロースクール(LLM:修士)
 東京大学経済学部非常勤講師(2022年度・2023年度)
 大阪経済大学非常勤講師(2018年度~2022年度)
 金融審議会専門委員(2004年7月~2008年7月)
 日本保険学会理事、生命保険経営学会常務理事 等

【著書】
 『はじめて学ぶ少額短期保険』
  出版社:保険毎日新聞社
  発行年月:2024年02月

 『Q&Aで読み解く保険業法』
  出版社:保険毎日新聞社
  発行年月:2022年07月

 『はじめて学ぶ生命保険』
  出版社:保険毎日新聞社
  発行年月:2021年05月

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