リスクコントロール型ファンドは過剰なリスクを回避できるか

2020年06月03日

(高岡 和佳子) リスク管理

近年、フレキシブル・アロケーション型ファンドの設立が著しく増加している(図表1、左)。バランス型ファンドと同様に複数の資産クラスを投資対象とするが、資産配分の機動性が高いという点でバランス型ファンドとは異なる。バランス型ファンドは基準資産配分の維持が原則で、基準資産配分からの乖離は許容される範囲内に止める。基準資産配分は、中長期的なリスク・リターンの効率性を意識して設定されている。一方、フレキシブル・アロケーションには基準資産配分を定めず、時々の相場環境に応じて機動的に資産配分を変更する。つまり、短期的なリスク・リターンを参考に、資産配分を決定する。

フレキシブル・アロケーション型ファンドは、TAA型とリスクコントロール型の二つに大別される。TAA型は、資産クラス別に割安・割高度を判定し資産配分を決定するなどリターン獲得に重きを置くのに対し、リスクコントロール型は、価格下落の危険性の程度によって資産配分を決定するなど、過剰なリスクテイク回避に重きを置く。2016年度以降、リスクコントロール型への資金流入がTAA型を上回り(図表1、中)、2019年度末時点の純資産総額はリスクコントロール型がTAA型を上回っている(図表1、右)。

バランス型ファンドのリターンは、投資対象資産クラスのマーケット・インデックスにより、おおよそ説明可能である。つまり、マーケット・インデックスはバランス型ファンド全般に共通する因子として機能し、ファンドによる基準資産配分の差は、共通因子であるマーケット・インデックスとの相関係数の差として現れる。では、機動的に資産配分を変更するフレキシブル・アロケーション型ファンドの場合、全ファンドに共通する因子はあるのだろうか。また、共通因子があるならば、TAA型とリスクコントロール型で違いがあるのだろうか。そこで、フレキシブル・アロケーション型ファンドのリターンデータ(月次)を用いて、共通因子の抽出を試みる。
共通因子の抽出を試みた結果、フレキシブル・アロケーション型ファンドのリターンの76%を説明可能な二つの共通因子を得た。第1因子はVIX指数と正の相関があることから投資家の不安感の強さと考えられる。不安感は株価の上昇の阻害要因の一つではあるが、必ずしも株価の下落を招くとは限らない。ファーウェイのCFO 逮捕による米中関係悪化懸念で株価が大きく下落した2018年12月の第1因子水準より、パリ同時多発テロが起こったものの株価が僅かに上昇した2015年11月の第1因子水準の方が高い(図表2、左)。第2因子は、第1因子の変化と正の強い相関があることから、不安感の変化と考えることができる。

不安感が必ずしも株価の下落を招くとは限らないとはいえ、不安感が強い時ほど株価は下落する傾向があるのは確かである。このため、過剰なリスクテイク回避に重きを置かないTAA型のリターンは、不安感の強さ(第1因子)と負の相関があると考えられる。一方、リスクコントロール型が過剰なリスクテイクを回避できているならば、リスクコントロール型のリターンと不安感の強さ(第1因子)との間に相関関係は確認できないはずである。実際にファンドのリターンと不安感の強さとの相関係数を確認すると、TAA型は-1に近く、リスクコントロール型は0に近い傾向がある(図表2、右(横軸))。つまり、リスクコントロール型は総じて過剰なリスクテイクを回避できている。しかし、リスクコントロール型ファンドであるのに、不安感の強さとの相関係数が-1に近いなど、コンセプトと実績が一致していないファンドもある。

では、過剰なリスクテイク回避の代償とは何か。不安感の強さとの相関が低いということは、不安感が弱く株価が上昇しやすい時に、さほどリターンを獲得できないということでもある。加えて、不安感の強さとの相関が低いファンドは、総じて不安感の変化(第2因子)と高い正の相関がある(図表2、右(縦軸))。一般的に、不安感が払拭されると株価は反発するので、不安感の変化と正の相関があることは、不安感払拭による株価反発の恩恵を放棄していることと同義である。つまり、過剰なリスクテイク回避の代償として、不安感が弱い時の高いリターン、特に不安感払拭時の株価反発の恩恵を放棄している。

フレキシブル・アロケーション型ファンドの採用にあたって、TAA型とリスクコントロール型の特徴を正しく理解し、いずれが資産運用方針と整合的かを検討する必要がある。また、ファンド選択に当たっては、コンセプトと実績が一致しているか吟味することをお勧めする。
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