2|新型コロナウイルス感染症により病院等医療機関ではなく臨時施設で療養した場合の入院給付金の取り扱い
「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」
13に従い、新型コロナウイルス感染症の罹患者が増加していることで、医療提供体制がひっ迫して病院等の医療施設の受け入れ可能な病床数が不足し、重症者等に対する医療提供に重点を移す観点から、新型コロナウイルス感染症に罹患(PCR 検査陽性)した場合でも、高齢者や基礎疾患を有する方など以外の方で、症状がないまたは医学的に症状が軽い方といった 「軽症者等」は、必ずしも病院等への入院ではなく、ホテルといった宿泊施設や自宅等で安静・療養を行う場合も生じている
14。
新型コロナウイルス感染症に罹患したにもかかわらず、「病院または診療所」といった医療機関への入院ではなく、そのような臨時施設や自宅等で療養した場合は、(疾病)入院給付金は支払われるのだろうか。
既述の約款が規定している(疾病)入院給付金が支払われる要件と照らすと、新型コロナウイルス感染症が原因としての「疾病」に該当することは「病院」等医療機関に入院する場合と変わらないと考えられる。
ポイントとなるのは、各生命保険会社が約款において、(疾病)入院給付金の支払対象となるためには医療法に定める「病院または診療所」への入院を要件としていることについてであろう。
「医療法」や「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」および「新型コロナウイルス感染症を指定感染症として定める等の政令」、「新型インフルエンザ等対策特別措置法」といった法令上、管見の限りでは、ホテルのような滞在型施設などの臨時施設について、医療法上の「病院または診療所」として法的な根拠を与えるような規定は見当たらないようである。
また、医療法に定める日本国内にある病院または診療所と「同等の日本国外にある医療施設」も「病院または診療所」に該当するといった規定が約款上規定されていることは既述の通りである。しかし、この規定も日本国外にある医療施設に関しての規定であり、この規定から当然に、国内のホテルのような滞在型施設などの臨時施設を医療法上の「病院または診療所」とみなすということにもならなそうである。
そうすると、新型コロナウイルス感染症による臨時施設における療養については、新型コロナウイルス感染症が約款上の「疾病」には当たるものの、各生命保険会社が約款で定める「入院」や「病院または診療所」に関わる約款規定の字義からは、(疾病)入院給付金が支払われる要件を満たさないことになりそうである。
しかし、このようなホテルといった宿泊施設や自宅等で療養する場合は約款が規定する要件を満たさないように見えるものの、宿泊施設や自宅等で療養する場合もその期間に関する医師または医療機関の証明書等を提出することにより(疾病)入院給付金の支払い対象とする旨を複数の生命保険会社が公表している
15。
これは、新型コロナウイルス感染症に罹患した場合、医療提供体制のひっ迫、病院等の医療施設の受け入れ可能な病床数の不足といった事情がなければ、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」に基づき、本来は「病院または診療所」に「入院」したであろうにも関わらず、重症者等に対する医療提供に重点を移す必要性から、臨時施設や自宅等で安静・療養することとなったといった特殊事情や、臨時施設や自宅等で安静・療養する場合も外出等をすると感染を広げる可能性があるため、自宅や宿泊施設から外に出ず、一定期間療養する必要があるとされていること、さらに、宿泊療養の場合は宿泊施設に配置された看護師等が、自宅療養の場合には保健所(または保健所から依頼された者)が、定期的に健康状況を確認し、症状に変化があった場合には、医療機関と連携し、必要な医療を受け、症状に応じて、必要な場合には、入院することとされている
16ことなどを踏まえて、約款が規定する(疾病)入院給付金の支払い対象の要件を満たすものとするという判断をしたと考えられる。
複数の生命保険会社が公表している内容では、病院等と同等と「みなせる
17」施設、という表現を用いているのも、約款が規定している要件は満たさないものの、(疾病)入院給付金の支払い対象とすることの表れであろう。
こうした、複数の生命保険会社の新型コロナウイルス感染症に関わる(疾病)入院給付金について特別取り扱いを行うという判断は、「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」に沿ったものであろうし、各社のお客様を守るという点では各社の中長期的な利益にも沿うものであろう。
13 新型コロナウイルス感染症対策本部決定「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」2020年3月28日(2020年4月7日改正) (https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000620797.pdf, 2020年4月30日最終閲覧)
14 厚生労働省(新型コロナウイルス感染症対策推進本部)「新型コロナウイルス感染症の軽症者等に係る宿泊療養及び自宅療養の対象並びに自治体における対応に向けた準備について」(事務連絡)2020年4月2日 (https://www.mhlw.go.jp/content/000618525.pdf, 2020年4月24日最終閲覧)、厚生労働省(新型コロナウイルス感染症対策推進本部)「『新型コロナウイルス感染症の軽症者等に係る宿泊療養及び自宅療養の対象並びに自治体における対応に向けた準備について』に関するQ&Aについて」(事務連絡)2020年4月6日(https://www.mhlw.go.jp/content/000619458.pdf, 2020年4月24日最終閲覧)、東京都「新型コロナウイルス感染症の入院患者の宿泊施設での療養を開始します(第155報)」2020年4月6日(https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/hodohappyo/press/2020/04/06/21.html, 2020年4月24日最終閲覧)、大阪府「新型コロナウイルス軽症者等の宿泊療養にかかる宿泊施設について」2020年4月20日(http://www.pref.osaka.lg.jp/hodo/index.php?site=fumin&pageId=38058, 2020年4月24日最終閲覧)。
15 日本生命保険「新型コロナウイルス感染症に罹患されたお客様への保険金・給付金のお支払いについて」2020年4月7日(https://www.nissay.co.jp/news/2020/pdf/20200407.pdf, 2020年4月24日最終閲覧)、第一生命保険「『新型コロナウイルス感染症』に関連したご案内等について」(https://www.dai-ichi-life.co.jp/information/pdf/index_038.pdf, 2020年4月24日最終閲覧)、住友生命保険「新型コロナウイルス感染症の影響に伴う特別取扱いについて」2020年4月7日更新(https://www.sumitomolife.co.jp/coronavirus2.pdf, 2020年4月24日最終閲覧)、明治安田生命保険「新型コロナウイルス感染症の影響拡大に伴うお客さまへの追加対応について~入院給付金・入院治療給付金に関する特別取扱い~」2020年4月7日(https://www.meijiyasuda.co.jp/profile/news/release/2020/pdf/20200407_01.pdf, 2020年4月24日最終閲覧)、朝日生命保険「新型コロナウイルス感染症に罹患されたお客様への保険金・給付金のお支払いについて」2020年4月7日(https://www.asahi-life.co.jp/company/newsrelease/20200407.pdf, 2020年4月24日最終閲覧)、大樹生命保険「新型コロナウイルス感染症に罹患されたお客さまへの保険金・給付金のお支払いについて」2020年4月7日(https://www.taiju-life.co.jp/corporate/news/pdf/20200407_1.pdf, 2020年4月24日最終閲覧)、東京海上日動あんしん生命保険「新型コロナウイルス感染症による影響をふまえ、特別措置を実施しております③」2020年4月8日(https://www2.tmn-anshin.co.jp/download/808/20200408news.pdf, 2020年4月24日最終閲覧)、アフラック生命保険「新型コロナウイルス感染症に関するお客様への特別取扱いについて(追加対応)」2020年4月8日(https://www.aflac.co.jp/news_pdf/2020040801.pdf, 2020年4月24日最終閲覧)など生命保険会社42社のうち37社が公表している。
16 厚生労働省(新型コロナウイルス感染症対策推進本部)「『新型コロナウイルス感染症の軽症者等に係る宿泊療養及び自宅療養の対象並びに自治体における対応に向けた準備について』に関するQ&Aについて」(事務連絡)(2020年4月6日)(https://www.mhlw.go.jp/content/000619458.pdf, 2020年4月24日最終閲覧)。
17 「みなす」とは性質が異なるものを同一視する場合の表現とされる(林大・山田卓生編「法律類語難語辞典〔新版〕」143頁、239頁(有斐閣、1998年。)。
5――おわりに