コラム

Jリート市場は▲32%下落。過去のショック安局面と比較する~リーマンショック級のダメージを回避できるか~

2020年03月18日

(岩佐 浩人) 不動産市場・不動産市況

新型コロナウイルス(新型肺炎)の世界的な感染拡大を背景に、金融市場の動揺が止まりません。Jリート(不動産投資信託)市場は先週(3/9~3/13)▲22%急落し、今週(3/16~3/17)も続落したことで、昨年11月に付けた高値からの下落率は▲32%に達しています(図表1)。
 
今年に入り、Jリート市場は新型肺炎に対する懸念が強まるなかでも昨年末比プラス圏で推移し、コロナ禍とは遠く離れた立ち位置でした。これは、Jリート市場が業績の安定性などが評価されてリスク回避を意図した資金の受け皿となっていたためです。

しかし、金融市場がひとたび強烈なショック安に見舞われてしまうと、上場金融商品であるJリート市場もその影響から免れることはできません。2月第4週以降、グローバル市場の動乱はJリート市場にも波及し、東証REIT指数は2015年9月以来の水準まで下落しています。
過去のショック安の局面を振り返ると、SARS流行時(2002年~2003年)を除いてJリート市場も大きく下落し、株式市場と並ぶ下落率を記録しています(図表2)。Jリート投資の本質は賃貸不動産を通じて日本経済の生み出す果実を享受することです。受け取る手段が異なるだけで、収益の源泉は株式と同じく日本経済であり、経済成長なくしてリターンは望めません。金融市場の動揺が落ち着くまでの間、Jリート市場もボラティリティの高い不安定な動きが続くことが予想されます。
ところで、今回のJリート市場の下落率(▲32%)は、東日本大震災時(▲30%)やチャイナショック時(▲24%)を既に上回る水準であり、リーマンショック時(▲65%)に次いで大きい調整局面を迎えています。

また、現在のバリュエーションはP/NAV倍率1で0.87倍、10年国債利回りに対するイールドスプレッドで5.0%となり、リーマンショック時(0.53倍、8.2%)や東日本大震災時(0.76倍、5.3%)に次いで割安な水準となっています(図表3)。
こうしてみると、あらためてリーマンショックの衝撃の大きさを認識するとともに、今後は世界経済がリーマンショック級のダメージを回避できるかが焦点となります。リーマンショック時は、金融ショックを発端として経済ショックを引き起こしました。これに対して、今回はヒトやモノの分断に伴う経済ショックを発端としています。金融市場の流動性を確保し資金の目詰まりを防ぐことで、何としても金融ショックへの連鎖を防止できるよう、各国の足並みを揃えた国際協調が求められます。
 
いずれにせよ、コロナ禍の終息には予防ワクチンと治療薬の開発が待たれますが、分断された社会の絆を修復するにはさらなる時間を要するでしょう。それまでの間、経済ショックを緩和する財政出動や金融ショックを防ぐ金融政策はもとより、医療・教育・福祉など国民生活を支えるセーフティネットへの目配りが欠かせません。

Jリート市場も社会の公器としての役割を全うし、この危機を克服することを期待しています。
 
1 P/NAV倍率とは、市場時価総額がリートの解散価値(NAV:Net Asset Value)の何倍で評価されているかを表わす指標。
 
 

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金融研究部   不動産調査室長

岩佐 浩人(いわさ ひろと)

研究領域:不動産

研究・専門分野
不動産市場・投資分析

経歴

【職歴】
 1993年 日本生命保険相互会社入社
 2005年 ニッセイ基礎研究所
 2019年4月より現職

【加入団体等】
 ・一般社団法人不動産証券化協会認定マスター
 ・日本証券アナリスト協会検定会員

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