文在寅ケアの主な内容としては、(1)健康保険が適用されていない3大保険外診療(看病費
1、選択診療費、差額ベッド代)を含めた保険外診療の段階的な保険適用、(2)脆弱階層(高齢者、女性、児童、障がい者)の自己負担軽減、低所得層の自己負担上限額の引き下げ、(3)災難的医療費支出(家計の医療費支出が年間所得の40%以上である状況)に対する支援事業の制度化及び対象者の拡大などが挙げられる。この中でも特にポイントは国民医療費増加の主因とも言われている保険外診療(健康保険が適用されず、診療を受けたときは、患者が全額を自己負担する診療科目)を画期的に減らすことである。文在寅ケアにより、エステや美容整形などを除くMRI検査やロボット手術など約3,800項目の保険外診療が2022年までに段階的に保険が適用されることになる。
3大保険外診療の中で患者の負担が最も大きいのは、選択診療制である。選択診療制とは、病院級以上の医療機関を利用する患者が、特定の資格を満たしている医師を自ら選択し、その医師から医療サービス(診察、入院、検査、影像診断及び放射線治療、麻酔、精神療法、処置及び手術、鍼灸や附缸治療
2)を受けた場合、診療費の15~50%に達する費用を追加で負担する仕組みである。患者やその家族にとって負担が大きく、制度の改善が継続的に要求されていたので、韓国政府は選択診療制を段階的に縮小(制限)してきた。文在寅ケアの実施により選択診療制は2018年から完全に廃止された。また、差額ベッド代の基準を変え、健康保険の適用が既存の4人部屋から、2018年下半期以降2~3人部屋まで拡大された。さらに、2017年10月から重度認知症高齢者の自己負担率は既存の20~60%から10%になり、子どもの自己負担率も既存の6歳未満10%から15歳以下5%になった。
韓国政府は、今般の健康保険の保障性強化対策の実施により、2015年現在63.4%である健康保険の保障率を2022年には70%水準まで引き上げることを目標としている。健康保険の保障率(以下、保障率)とは、健康保険の被保険者が支出する医療費総額のうち、保険者が負担する比率である。
韓国政府が目指している保障率70%に対して市民団体の「参与連帯」は、OECD加盟国の公的医療保険の保障率が平均81%であることと比べると、韓国政府の目標値は適正な数値とは評価し難く、健康保険に対する国庫支援を拡大するなどの積極的な財政拡大政策を実施し、より高い保障率を提示すべきだと提言している。
但し、公的医療保険による保障率は、各国の医療制度が異なるために、直接的に比較することは難しい。従って、国際比較のためには、国民医療費に占める公的医療費の割合を見た方がより望ましい。OECDのHealth Data 2019によると、OECD36ヵ国の国民医療費に占める公的医療費の割合は、2017年時点では平均71%で、韓国の57%を大きく上回っているので、韓国の公的医療保険による保障率が低いことがうかがえる。
この結果を踏まえると、今後、文在寅ケアの実施などにより保障性をより強化する必要があると言えよう。しかしながら、問題は財源だ。今後高齢化率が上昇すると、国民医療費は急速に増加することになり、韓国政府の財政的な負担は現在より大きくなるだろう。韓国の高齢化率は2018年に高齢社会の基準である14%を超えてから早いスピードで上昇し、2065年には42.5%で、同時点の日本の高齢化率38.4%を上回ると推計されている。
実際、最近韓国の医療費は早いスピードで増加している。、韓国保健社会研究院が2018年に発表した報告書によると、2005年から2015年の間の韓国の年平均医療費増加率は6.8%で、OECD平均2.1%を大きく上回り、OECD加盟国の中で最も高いことが明らかになった。
1 韓国では家族が患者を看病する独特の医療文化が残っている。家族が仕事等で患者の看病ができない場合には看病人を雇って患者の身の回りの世話をさせる。看病にかかる費用は医療保険が適用されず、患者やその家族には大きな負担になっている。
2 附缸治療(カッピング・セラピー):附缸治療(カッピング・セラピー)とは、吸玉療法とも呼ばれる、伝統的な民間療法で、附缸(カッピングカップ)を患部に吸着し、引っぱる(吸引する)ことによって刺激を与えて血流の量を増やし、血の巡りがよくなるようにする治療法。
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