このような状況の中、2020年に入ると、民間保険会社によるP2P互助市場への参入が見られるようになり、第3フェーズが始まった。
2020年1月15日、民間最大手の平安保険グループは自社の健康アプリである平安グッドドクターのユーザー向けに、癌を給付対象とする新たなP2P互助「歩歩奪宝」の加入受付を開始した
5。2019年までは、クラウドファンディング企業やBATJ(百度・アリババ・テンセント・京東)といった異業種のプラットフォーマーが中心となっていたが、大手・伝統的な保険会社は初めての参入となる。平安保険グループは価格が少額なネット重大疾病保険なども販売しているが、歩歩奪宝は保険商品ではなく、グループ傘下の平安健康インターネット株式有限会社が運営するP2P互助となっている。
歩歩奪宝は88種の悪性腫瘍の入院・治療費、通院・治療費、救急外来費を給付対象としており、加入対象年齢は18~50歳となっている。給付の上限は300万元(約4,800万円)と一見すれば相互宝の10倍で高額とも捉えられる。しかし、社会保険で給付されなかった自己負担部分を補填する形式をとっており、相互宝のように一時金での給付とは異なる。また、給付には免責額が設けられており、1万元(約16万円)までは加入者自身が自己負担する点もこれまでのP2P互助にはなかった特徴の1つである
6。なお、加入者が社会保険に加入している場合は歩歩奪宝の給付額が少なくてすむため100%の給付、社会保険に加入していない場合は60%分を給付するという制限を設けている。このように、歩歩奪宝は免責額を設けてはいるものの、300万元という高額な医療保障を可能にしている。また、実際発生した自己負担部分を補填するなど、P2P互助でありながら、実損填補型の医療保険に類似した要素が多く見られる。
P2P互助は加入時の負担なし、管理費と給付金の割り勘による後払いが主流になりつつある中で、歩歩奪宝については、一定条件を満たさない限り、加入時から負担を求めている。つまり、通常は月額6元(年間72元)の権益費の支払いを求めており、加入に際して自身と友人など2名の合計3名の加入が実現した場合のみ、3名とも1年間権益費を免除するとした。
一方、管理費と給付金の割り勘額については、平安グッドドクター上で使用が可能なポイント(「健康金」)を充当することができるのも大きな特徴である。ポイント(健康金)は自身が普段歩いた歩数の多寡、友人への紹介、健康関連の商品購入などによって付与される。
まず、管理費については、月額6ポイント(健康金)が必要である。次に、給付金の割り勘額については給付対象となる医療費(実質的に負担した医療費)から免責額を差し引いた金額をポイントに換算しなおして算出され、そのポイントを加入者で割り勘して負担する。
加入者は、これら管理費や給付金の割り勘額をポイント(健康金)で充当するが、充当するポイント(健康金)が足りない場合は、負担額に相当する金額を平安グッドドクターのネット決済口座から現金で差し引かれることになる。また、実際支払われる給付金は、第三者の審査機関の審査を経て、ポイントではなく、現金(人民元)で支払われる。
費用負担は、加入しているだけで権益費が月額6元(年間72元)、管理費が1ヶ月あたり6ポイント(健康金)必要となる。加えて、給付金の割り勘額をポイントで負担する必要があり、相互宝と比較しても割高感は否めない。平安グッドドクターのユーザー数は3億人を超えているが、受付開始2週間後の1月29日時点での加入者は57,348名となっており、相互宝のような2週間で加入者が1,000万人を超えるといった勢いは見られない。
5 平安保険は1月15日に癌、翌日には骨折についてのP2P互助の加入受付も開始している。
6 中国における2018年のサラリーマンの平均月給は、およそ5,700元。1万元の免責額は平均月給の2か月分に相当する。
4――P2P互助の普及拡大と進まない規制・規定の整備