近年、中小企業等が活用できるSaaS型の業務ソリューションが増えている。以下で、日本の中小企業等が活用するSaaSの一例を見ていきたい。
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会計
いわゆる「クラウド会計ソフト」と称される分野の代表例の1つが、「クラウド会計ソフトfreee」だ。その開発・提供を手掛けるのは、2012年設立のフリー株式会社である。同社は、注目を集めるスタートアップ企業の1つであり、2019年12月に東証マザーズに新規上場を果たしたことでも話題になった。
同社によれば、「カンタン、自動化」が特徴の1つである。借方、貸方といった一般的な会計ソフトの入力方式を経ない方法による会計帳簿の作成を可能とし、簿記の知識のない人でも利用可能であるとアピールしている。代表的な機能として、銀行口座やクレジットカード、ECサイト等の請求明細のデータを自動で取り込むことができる。例えば、オンラインバンキングのログイン情報を登録しておくと、銀行口座の利用履歴が自動で取り込まれる(ログイン情報を登録することなくデータを取り込める「API
5連携方式」が使える銀行口座もある)。データ(取引先の名前等)から取引内容を推測する機能もある(「○○電力」からの引き落としがあれば、勘定科目を「水道光熱費」として推察して提示する等)。また、毎月の水道光熱費や消耗品購入等のよくある取引については、事前にルールを作成・登録して自動で処理させることができる。レシートや領収書をスマートフォンのカメラで撮影したり、スキャナで取り込んだりすることで、その記載内容(取引日や金額等)をデータとして読み込むことも可能だ。こうした機能によって、担当者による手入力作業が減り、入力ミスや作業時間の削減に繋がる。他にも、請求書や見積書の作成・管理、従業員の経費精算等の機能も提供している。複数人数で利用が可能で、税理士や公認会計士等がインターネット上でデータにアクセスすることもできる。
「freee」の利用者である中小企業等を対象にした金融サービスもある。例えば、株式会社ジャパンネット銀行が「freee」の利用者専用のビジネスローンを提供している。銀行はクラウド会計ソフトのデータから直近の財務状況等を確認し、審査を行う。申込はインターネット完結(来店不要)で、口座を持っていれば申込後最短で翌営業日には借入ができるという
6。融資契約後も、定期的に借主の財務状況等についてクラウド会計ソフトを通じて確認するとのことだ。
2019年6月、フリーの子会社が、クラウド会計ソフトの財務データを用いて提携先金融機関の融資商品の借入可能額や金利等の借入条件を独自に試算し提示するサービスを開始した。利用者は、オンラインで試算結果を確認でき、金融機関に対する正式な融資の審査もオンラインで申込むことができる(申込のタイミングで、利用者が同意した後に、利用者の情報や財務データが金融機関に連携される)。提携先のファクタリング事業者が利用者の売掛債権を買い取る(早期に現金化する)サービスもある。利用者の財務データや、作成して登録されている請求書(売掛債権。「freee」には取引先に対する請求書を作成し、入金状況等を管理する機能がある。)のデータを用いて、ファクタリング事業者が買い取りできそうな請求書(売掛債権)の一覧が提示される。利用者はオンラインで正式な申込をすることができ、審査を通過すれば申込から最短で1営業日以内に現金が口座に振り込まれるという。
フリーは、クラウド人事労務ソフトも提供している。人事労務ソフトで作成した給与や賞与のデータを、会計ソフトに連携させることもできる。同社の開示資料
7によれば、「従来の会計・人事労務ソフトの枠を超えて、バックオフィス全体の効率化に資するERP(統合型業務ソフト)を志向し、サービスの範囲拡大を目指す」としており、中小企業等の情報が蓄積された「ビジネスプラットフォーム」を目指していることもうかがえる。
なお、クラウド会計ソフトは、個人向け家計簿アプリも手掛る株式会社マネーフォワード(2012年5月設立、2017年9月東証マザーズ上場)や、パッケージ型会計ソフトを手掛けてきた弥生株式会社(オリックス株式会社傘下)、株式会社オービックビジネスコンサルタント(東証1部上場)等も提供している。便利な業務用ソフトという域にとどまらず、利用者の会計データを活用した金融サービスの可能性にも期待が高まる。金融機関との提携や連携が見られる等、フィンテック関連として注目を集めているのが現状だ。