ポイント還元策に対して「割引」で対応するのは、決済サービス事業者にとってもメリットがあると考えられる。
政府のポイント還元策では2,798億円の予算が計上されている。この予算の中で、政府から決済サービス事業者を経由して消費者に還元される補助金については、決済サービス事業者が消費者にポイント等として付与した後に、決済サービス事業者が政府に請求することで交付される(図表2)。
しかしながら、補助金の算出式の定義を見ると、単純に「消費者が中小店舗で購入した決済額」に対して5%(個別店舗での購入)や2%(フランチャイズチェーン等での購入)の掛け目を掛け合わせた合計額として計算されるわけではない。消費者に還元されたポイントの一部は使用しないまま有効期限切れで失効してしまうことも想定される。この場合、政府から決済サービス事業者に対して消費者にポイント等として利用された額以上の補助金を交付することになってしまい、補助金の一部が決済サービス事業者の利益になることが懸念される。このような観点から、政府はさらに補助金の計算式に掛け目としてポイント制度の有効期限に基づいた「失効率」も加えている(図表2)。
この「失効率」の定義については、失効率を計算できる決済サービス事業者については、過去6ヶ月以上の期間における実績データに基づいて計測されたものを使用することとしている。失効率を計測できない決済サービス事業者に対しては、大手決済サービス事業者へのヒアリングに基づいて国が設定した基準値(店頭で普段利用されるポイント等に対して8%、店頭であまり利用されないポイント等に対して40%)が適用される。
しかしながら、ポイント還元策が導入されることで、キャッシュレス決済だけではなくポイント制度の利用も同時に普及していく可能性が高いだろう。つまり、ポイント還元策の導入前後で消費者行動に構造変化が生じることが想定される。その結果として、過去の実績値で推定された値に基づいて将来の補助金のやり取りを行うと、「推定した失効率」と「実際の失効率」との間で乖離が大きくなってしまうリスクについて考慮する必要が出てくる。それゆえ、この失効率の乖離幅を固定化できる
5という観点で、決済サービス事業者にとって割引還元で対応するインセンティブがあるのではないだろうか。
今回のポイント還元策では中小店舗のキャッシュレス化に際して「端末導入に関する1/3の費用負担」や「決済手数料を最大3.25%に引き下げる」などの対応で、決済サービス事業者はキャッシュレス化に要する社会的なコストを支払うことがすでに確定している。表向きは「消費者のメリット拡大」との目的の割引還元対応だが、将来に受け取る補助金が変動するリスクをなくして、ポイント還元策への対応で発生する諸費用をある程度確定させておきたいという意味合いも含んでいると解釈できるだろう。
一方で、特に国内プラットフォーマーなどでは、自社のエコシステムにおける購買履歴データの収集や顧客を囲い込んでいく目的でポイント制度を活用する事業者を中心に、原則どおりにポイント等の還元で対応するところも出てくるものと考えられる。
ところで、政府が仮定した「失効率」に基づいて推定した額を予算(2,798億円)として計上していた場合、割引還元で対応する決済サービス事業者や店舗が増えると、想定よりも早く予算を使い切る可能性がある。その際に、補正予算で対応するのか、ポイント還元策を想定していた期限よりも早く終了するのか、今後の政府の動向にも注目したい。