本リサーチを行う前に予備調査として、専門性のある施設で短冊内容のリサーチを行った。リサーチ期間は2018年7月1日~4日の間で動物園、スポーツジム、スーパーマーケット、市役所、小学校、学習塾、コンビニエンスストアにおいて、設営してある七夕飾りに吊るされた短冊内容をリサーチした。結果、短冊に書かれる内容は(1)書く場所、(2)書く場所との関与度、(3)見られる対象、(4)書かれる時期、に左右されると考察した。
まず、「書く場所」だが短冊を書く場所の専門性が高い場合、その専門に対する願いが書かれる傾向が強いことがわかった。スポーツジムでは体力、体型、ダイエット等肉体や健康についての願い事が全体の79%、動物園では動物の健康や地球温暖化に対する願い等、動物や環境に関する願い事が全体の32%、塾では合格祈願が全体の100%であり、短冊に書かれる内容は書かれる場所に大きな影響を受けていることが解っている。一方で、スーパーマーケット、コンビニ、市役所、小学校など生活空間に根付いた場所で書かれた短冊においては、イクスピアリの短冊同様、よりパーソナルで書かれた場所に影響を受けない内容がほとんどであった。
次に、「書く場所との関与度」が大きな要因であり、スポーツジムや塾といった会費を支払い、自らの意思でその場所に通っている場合、その場所と自身の関与度が高く、その施設に関係する願いを書くことで願掛けの意味を込めているようである。これは、江戸時代に寺子屋で子供たちが、「字がうまくなりますように」との願いを短冊にこめた現象と同じであると考えられる。
次に、短冊が「見られる対象」であるが、ジムや塾という施設内の閉鎖されたコミュニティにおいて個人的な願い事を書くことよりも、短冊にコミュニティにおけるコミュニケーションツールとしての役割を見出し、その専門性に沿った内容を他のコミュニティメンバーと同調して書く傾向があった。
最後に短冊が「書かれる時期」は、妊娠中、新婚、受験期などライフステージの内容が反映される個人的な時期と社会的な時期が関係しており、今回のリサーチではワールドカップの年であり、日本代表を願う短冊が予備調査、および本リサーチでも多く見られた。
このような要因から、ディズニーランド内においてはディズニー要素のウィッシングカードが両パークともに35%以上を占めていた。この結果には、ディズニーランドが聖地である点が影響していると考察している。ディズニーランドという装置は,能登路雅子のいう聖地の役割を果たしており、ディズニーランド来園者が日常生活の規範から逸脱し、境界状態にある人間の不確定な状況である「リミナリティ」の状況に置かれ、ディズニー内で「コミュニタス」状態(日常的な秩序が逆転・解体した非日常的な社会状態)を経験
5することが、ディズニーランド内での「非日常性」を生んでいる。ディズニーランドという非日常空間においては、ディズニーが提供したストーリー性がすべてである。七夕デイズにおけるストーリーは、ミニーマウスが織姫、ミッキーマウスが彦星であり、ゲストはミッキーとミニーに対して願うのである。予備調査より、短冊の内容は書かれる場所に強く影響を受けると分かったが、ディズニーのウィッシングカードは顕著な例であり、書かれた場所、書かれた場所での七夕のストーリー性をゲストが汲み取った結果、ディズニーランド内では、ディズニー要素が多い短冊が観察できると考察した。
5 Turner、Victor.1969. The Ritual Process: Structure and Anti-Structure: Transaction Publishers. 富倉光雄訳.1976『儀礼の過程』新思索社.
5――個々の短冊内容の検証