このほか、都道府県の担当職員の意欲や力量の差、地元医師会のスタンス、都道府県と地元医師会の関係、
(上)で述べた公立・公的医療機関のウエイトといった地域事情を踏まえる必要もあり、合意形成を得るための「早道」は存在しない。一言で評すると、地域の事情に応じて都道府県を中心に関係者が地道に合意形成を積み上げるアプローチが重要になる。
その際、合意形成プロセスの公開は一つの重要なエッセンスと思われる。例えば、地域医療構想のポイントの一つは医療機関の役割分担を定める点にあり、「××病院が急性期を維持するのであれば、△△病院は回復期を中心に地域の開業医と連携する」といった形で合意を形成する上では、相互の信頼関係の構築が不可欠であり、「隣の●●病院が急性期を維持するつもりなのでは」といった不信感を相互に持っていると、調整が進まない可能性がある。こうした不信感を払拭し、関係者同士の信頼関係を構築する上では、調整プロセスの透明性を高める情報開示・情報共有が非常に重要になる。
さらに調整会議を運営する都道府県と、民間医療機関の信頼関係も必要である。民間医療機関から見ると、公立病院を所管している都道府県は患者獲得を巡って競争しているライヴァルでもある。こうした状況で都道府県が公立病院の利益を優先した場合、あるいは「優先している」と民間医療機関に受け止められた場合、民間医療機関の不信感を招く危険性がある。つまり、調整会議における都道府県の役割は議論を調整するコーディネーターとして振る舞うことが期待されているのに、民間医療機関が「都道府県はプレイヤーとしての利益を優先している」と疑えば、調整や合意形成は進みにくくなる。
このほか、住民の理解も欠かせない。例えば、病床を減らしたり、機能を再編したりする合意が関係者の間で整ったとしても、「今まで5分あれば救急車で運んでもらえたのに、来年度から15分になる」という形で受け止められれば、住民から反発や不安が出る可能性がある。増してや、公立病院の統廃合や再編は住民の反発を招いたり、首長や議員の選挙で争点になったりする分、理屈通りに進まないことが多い。こうした反発や不安への対応として、「救急機能に影響が出ないようにドクターヘリを整備する」といった代替策を検討することが求められる
6ほか、住民に対する丁寧な説明プロセスが求められる。
以上の点を踏まえると、関係者の合意形成を図る最低限の基盤として、調整会議の資料や議事録を幅広く公開される必要がある。この点については、ヘルスケアシステムの良いガバナンス(統治)や住民参加に必要な要素として、「透明性」(transparency)が論じられていることとも符合する
7。
では、都道府県は地域医療構想について、どのような情報開示・情報共有に取り組んでいるのだろうか。都道府県のウエブサイトに載っている資料・議事録の公開度合いを検証することで、調整会議の合意形成プロセスに関する情報開示・情報共有に向けたスタンスを検証する。
6 ここでは詳しく述べないが、過疎地における医師確保などが求められる場合、2019年度中に都道府県が策定する「医師確保計画」との整合性も問われることになり、都道府県の責任が一層、増すことになる。
7 Scott L. Greer et.al(2015)"Strengthening Health System Governance"European Observatory on Health Systems and Policies Series,pp32-41.
3――都道府県による情報開示・情報共有の検証