3|生命保険の活用
生命保険の活用については、「事業承継ガイドライン」の中では、
・死亡保険金に対する相続税の非課税枠の活用による相続税負担の軽減、といった納税負担や遺産分割・遺留分への課題への対応、
・現経営者の引退後の生活資金の確保、
・会社側における(死亡)退職金の準備、
などが挙げられている。
生命保険が他の資産と異なる特徴として、「保険金が現金であること」、「速やかに支払われること」が挙げられる。
事業承継の際には、先に述べたような税制の優遇措置はあるものの、相続や贈与などに関わる納税負担がある程度は発生する。また、事業承継者以外への親族への相続も発生する。
一般には相続・承継される財産は株式・不動産であるが、事業継続のためには、株式・不動産を現金化するわけにはいかない。こうした財産の散逸することを避けることが、事業承継時の相続に関する注意点であった。だから、現金の形で用意される資産は貴重なものとなるのだが、保険金はこうした資金に充てることに際しては便利である。
生命保険契約の中でも死亡保険金の場合は支払い事由がはっきりしているので、支払条件の審査や場合によっては訴訟などで、支払いが遅延するトラブルは通常なく、相当速やかに支払われるものであるのは、利点であろう。
また保険金は、あらかじめ保険金受取人を指定しておくべきもので、その受取人の固有の財産となることから、遺産分割の対象とはならず、また遺留分にも含まれない。従って後継者を保険金受取人に指定しておけば、確実に資金として活用することができる。この資金を後継者以外の親族への支払原資とすることもできる。
一般に、中小企業や個人事業だと、金融機関からの借入にあたって、現事業主の個人保証や債務保証がつけられる場合が多い中、事業承継者がそうした信用までもすぐ受け継げるかというと、金融機関に対する信用面からそうもいかず、一般には厳しい状況のようである。そうしたケースでは「個人契約の」生命保険の受取金があれば、相続にかかわらず、万一のときの返済資金が準備できることになる。
法人契約の場合には、生命保険と会社の財務状況の関係において、以下のようなメリットもある。
まず、保険料支払いについては会社の費用となることから、その分、保険料支払事業年度の利益を押し下げ、会社の株式評価額が下がることにより、事業承継時の相続・贈与対象評価額も下がる効果があり、そうした税金負担が小さくて済む。
逆に、死亡退職金の支払年度を考える。死亡退職金の支払は会社の利益を一時的に引き下げることになり、場合によっては赤字になるかもしれない。その際、金融機関の融資が必要だとするなら、赤字の状況でも借り入れができるかという懸念がある。その時に生命保険の保険金受取という収益があれば、それを補うことができるので利益の減少が軽減される、という効果がある。
5――おわりに