2|誰(どこ)に継承してもらうのか
事業を承継させる先を考えれば、以下のようにいくつかのケースがある。
(1) 親族内承継
現在の経営者の子など親族に承継させる方法である。このメリットは
・他の方法に比べて、内外の関係者から心情的に受け入れられやすいこと
・後継者を早期に決定でき、そうすれば十分長期の準備期間が確保できること
・相続ともあいまって、財産の所有と経営権の移転の一体的な承継が期待できること
・経営方針や従業員の待遇が急に変わることは少ない(かどうかは、それぞれの事情によるが、後に述べるM&Aなどで、これまでまったく縁のない外部から経営陣がやってくることと比較すれば、重要な側面のひとつと思えるだろう。)こと
などが挙げられる。その一方で注意点(デメリット)としては、
・親族の中の誰も、会社を継ぐ意思や能力がない場合があること(個人の資質の問題であることも、会社の魅力度の問題であることも両方あろうか。)。
・遺産相続との関係、特に複数の子供がいる場合に特定の子に事業承継させる場合の不公平への配慮、あるいは遺産トラブル
などが挙げられる。
(2) 従業員への承継
これは、長年社長を支えてきた従業員(いわゆる番頭さん的存在)や、有望な若手社員に事業を受け継いでもらうことである。該当者が有能な後継者とみなされれば、社内の期待もあり、会社が将来に向けてさらに発展する可能性もあるし、社内での反発も少ないかもしれない(これももちろんそれぞれの事情による。)ので、候補者さえいれば有力な選択肢となる。
しかし、従業員への承継にはかなり困難な状況がある。それは、通常の場合、従業員個人単位で会社の全株式購入資金を手にするのが困難であることである。あるいは現経営者が安く譲ってもいい(贈与税等で何か問題がある気もするが。)かもしれない。しかし、その場合は現経営者の取り分が減少してしまい、引退後の生活に支障をきたすことがある。
だからといって、株式の譲渡を行わず、経営だけ引き継ぐことにすれば、資産・権利の所有と経営権が分離してしまう。現経営者が(売れない)株式をもっていても仕方ないし、後継者は発言権がないまま経営する状態になり、トラブルのもととなりそうである。
さらには、現経営者が個人の立場で保証人になっていたりする場合どうするか、あるいは個人資産の担保を提供している場合どうなるか、など、これらは従業員への承継に限ったことではないが、相当ハードルは高いようだ。
(3) M&A
自社の事業に関心のある企業を探し、自社を買い取ってもらう方法である。このメリットは、親族や従業員に適任者がいない場合でも、外部に広く候補者・企業を求めることが可能な点である。また現経営者は(もしあれば)会社売却の利益を得ることができる。後述するように、国の施策としても、適任となる後継者が見当たらないケースでは、親族に限らずより広く後継者を探す「企業マッチング」などの方策も推奨され、援助する制度も設けられている。
(4) (一応触れておくが)廃業
残念ながら事業継承ができない場合、廃業となる。会社の資産を売却、負債を返済することで、会社を清算し残金は株主に配当される。後継者も買い手も必要ない。比較的短時間で処理できる。しかし、現在の会社のブランド、信用、技術力など全てが消失する。またM&Aに比べて、例えば「営業権」分の金額は受け取れないし、かかる税金も所得税など税率が高いものが適用される不利があるかもしれない。
業績が悪化していて、どうにもならないケースを除いては、大変残念なことであり、できれば避けたい選択肢ではある。従って、これを防ぐために様々な形で事業承継を支援する援助制度・税制が生み出されてくる。
2――円滑な事業承継を阻む問題