2|再国民投票
(1)実現可能性-上がっている
再国民投票の可能性は高いとは言えないが、昨年12月20日に示された欧州司法裁判所(ECJ)の「一方的な離脱通知撤回を可能」とする判断
8、1月16日のメイ政権の不信任案否決、2月27日の下院の採決を経て、徐々に現実味を帯びるようになってきた。
最大野党の労働党は、離脱戦略を巡って与党・保守党以上に分裂してきたが、2月27日にコービン党首は、「保守党の有害な協定案による離脱や破滅的な合意なき離脱を阻止するため、人々の投票(a public vote)を支持する」声明文を出した
9。
この局面での労働党の方針転換には2つの背景がある。1つは、優先的な選択肢としてきた総選挙による政権交代と「ソフトな離脱」への軌道修正という選択肢が、共に下院で否決され、封じられた結果だ。1月16日にはメイ政権の不信任案が賛成306対反対325で否決されている。2月27日には、コービン党首が提出した「恒久的で包括的な関税同盟残留、単一市場との緊密な調和などを確保するためにEUに将来の関係の政治合意の修正を交渉する」ソフトな離脱案も賛成240対反対323で否決された。
方針転換のもう1つの背景は、2月18日以降、国民投票を支持しない等
10の党の方針を批判した合計9名の労働党議員の離党がある。離党した9名のうち8名の議員は、「合意なき離脱」を排除しない党方針を批判して保守党を離党した3名の議員とともに、「独立グループ(TIG)」を形成している。11人という規模は、保守党の314議席、労働党の245議席には大きく及ばないが、スコットランド民族党(SNP)の35議席に続き、自由民主党(LDP)と並ぶ。調査会社・ユーガブが2月22~23日に行った「TIGが次期総選挙で候補者を擁立したケースを想定した」支持率の調査
11ではTIGは18%で、保守党36%、労働党23%との差が縮まる。特に労働党とLDP から支持者を奪っている。下院議員は単純小選挙区制で選出されるため、二大政党以外の政党の議席獲得数は世論調査での支持率よりも抑えられる傾向にある。世論調査も、調査会社・オピニアムが2月28日~3月1日に行った調査
12では、TIGの支持は5%で、保守党37%、労働党33%と大きく差がついており、影響を受けているのはむしろ保守党だ。このようにTIGの評価はまだ定まらないが、労働党が、国民投票支持派の離党のドミノのリスクに危機意識を高める役割は果たしたことは間違いないだろう。
本稿執筆時点では、労働党が、メイ首相の協定案に最終的な判断を国民投票に委ねるという条件で賛成する修正動議を提出する準備を進めているようだ
13。仮に、「メイ首相の協定の受け入れか離脱撤回か」という国民投票があれば、離脱撤回となる可能性は高そうだ。オピニアムのメイ首相の協定に基づく離脱か残留かを問う国民投票を想定した世論調査では、「残留」が46%で「メイ首相の協定による離脱」の36%をリードする。ただ、図表2の世論調査では「離脱撤回」は、「合意なき離脱」、「合意あり離脱」と並ぶ支持を得ているが、「国民投票を条件とする離脱協定の賛成」は、わかりにくいためか、あまり支持を得ていない。
再国民投票の実現可能性は現時点では高くはない。現時点では、労働党の動議が議会の過半数を得られる目処が立っていないからだ。現在の議会下院の構成(図表3)では、労働党が再国民投票の動議で一致し、その他の野党が賛同しても、保守党とDUPが反対すれば、過半数に届かない。実際には、労働党からも反対票が投じられる見通しであり、それを超える保守党からの賛成が必要になってくる。しかし、現時点では、保守党内での再国民投票支持への目立った動きはない。強硬離脱派は、当然「合意なき離脱」という選択肢を除外する国民投票には反対するだろうし、メイ首相は、国益最優先の判断が求められるが、保守党の分裂につながるような選択はしそうにない。