以上のように、生産緑地の貸借によって想定される状況と効果を、やや理想的に描いてみたが、理想に近づけるためには、まちづくりの観点から次の3つが課題になると思われる。
1|地域の農業者と住民が一緒に考える場の設置
農業者や関係者の中には、生産緑地の貸借による懸念もあるようである。収益性を優先した貸し出しによる農環境の悪化、地域に馴染まない借り手の登場、地域にとって望ましくない活用といったことである。筆者は、こうした懸念に対して、地域の農業者と住民が一緒に農のあるまちづくりを考えることが必要だと考えている。
個々の生産緑地はそれぞれ、位置する場所の環境特性や、市場性、周辺住民の関心度などが異なる。したがって、生産緑地に期待されることも、それぞれ異なるはずだ。立地条件がよくて市場性が高い生産緑地であれば、収益性の高い事業を行おうとする者が借りようとするだろう。一方で、地域住民が求めていることはそれとは異なり、子育て環境の充実という地域の課題を意識して、農のある環境で子どもたちの学びや健康を育むことかもしれない。
そこで、まず地域にある農に期待される機能、役割、効果について、同じ地域の農業者と住民が共に考え、共有しておくことが重要になる。そうすることで、生産緑地を貸借する場合に、どのような事業・取り組みが地域にとって望ましいかという視点を所有者に与えることができ、その視点を事前に広く明示しておけば、借りようとする事業者にも意識させることができる。
その1で示した認定要件、基準にそれを盛り込んでおけば、地域にとってより重要な取り組みを事業計画に取り込むことができるはずである。事業者は地域の考えを取り入れて、地産地消型の生産・加工・販売を行いながら、地元の子育て支援活動団体と連携して、定期的に農地をフィールドに親子向けワークショップを開催するといったことが、貸借をきっかけに実現する可能性が広がる。
つまり、農の活用を地域のまちづくりに落とし込むのである。地域住民が抱く地域の課題を受け止めつつ、地域の中の個々の農地がそれぞれどのような役割を果たし、地域全体としてどのような多様な機能が発揮されるとよいのかを、まちづくりとして俯瞰的な視点で捉える場や機会が求められる。
しかしこのような、地域単位のまちづくりの中で農を捉える視点、手法は、法制度として十分に整っているとは言えない
4。ただし、都市計画分野では古くから協議会方式による地区まちづくりという手法があり、そのための手続きを定めた条例を設けている自治体もある。地区の環境を保全したり、向上させたりするために、地区住民が主体となって協議会という場をつくり、地区の将来像を描いて、それに必要な独自のルールを設け、協議会自身で運用するというものだ。地区まちづくりの制度を持つ自治体はそれを応用することができよう。ルールを設けるのではなく、地域において農をどのように生かすのかを共有する場として協議会方式を用いるのであれば、その実行はそれほど高いハードルにならないと思われる
5。
4 唯一、大阪府の「都市農業の推進及び農空間の保全と活用に関する条例」による農空間保全地域制度があり、参考になる。拙著「まちづくりレポート|大阪の農空間づくり-大阪府農空間保全地域制度による、協働型コモンズの形成」参照。
5 自治体が条例によって設ける地区まちづくり制度は、多くの場合地域住民による協議会を、自治体が認定する仕組みとなっており、認定のための同意要件を定めている。地区住民の○割以上の同意が客観的に認められるといったことだ。ここで論じたケースでこのような同意要件は、むしろ足かせになると考えられることから、応用には一考を要する。