一方、「大綱」発表前の2013年には、法の裁きに従わない人(自然人)を中心に、行動に制限をかける信用システムの構築がすでに始まっていた
2。2013年、最高人民法院(最高裁判所)と中国人民銀行(中央銀行)は、「失信被執行人」のブラックリストを共有化する備忘録を結んでいる。「失信被執行人」は、裁判所が通知や命令を出しているのに、それに従わなかったり、罰金や債務を支払わない者で、法院が認定する。
当初、法院と銀行間の連携で始まったが、2018年末時点では、中国の60以上の省庁、政府機関が連携し、個人や法人の情報を蓄積・管理する共同のプラットフォーム「信用中国」を構築している
3。この信用中国では、各機関の奨励情報、ブラックリストなど賞罰情報を公表している。
一旦、失信被執行人と認定されれば、氏名、年齢、IDナンバー、法院からの通知内容、執行状況などが信用中国のウェブサイトで公表される
4。
更に、失信被執行人が、指定された期間中に罰金を支払わないなど法院の命令に従わない場合は、高額消費や生活・仕事で必要とは判断されない消費を制限されることになる。それは(1)航空券、列車(軟座)、貨客船(2等以上)の席の購入、(2)星付きの旅館・ホテル、ナイトクラブ、ゴルフ場などにおける高額消費、(3)不動産の購入または新築、増築、住宅の高級改装、(4)ハイレベルなオフィス、ホテル、マンションなど賃貸しての就業、(5)業務に必要のない車輌の購入、(6)旅行、バカンス、(7)高額な学費がかかる私立学校への子女の就学、(8)高額な保険料を必要とする貯蓄・投資性保険商品への加入、(9)高速列車など一等以上の席の購入である
5。最高人民法院のウェサイトでは、消費や行動を制限されている対象者のリストも別途公表されている。
このように、当初は中国の法律や政府から見て信用度の低いと判断された者を対象に行われていたが、60の政府機関による‘横の連携’に、中央政府、32の省・直轄市・自治区、40の地方都市(地方政府)など‘縦の連携’が加わることで、大きな社会システムへと発展した。地方政府は、信用中国の地方版を活用しながら信用ポイントを運用し、民間のプラットフォーマーとも連携することでそのシステムを市民の末端まで浸透させるつもりだ。
2 2008年~2012年の全国の法院(裁判所)において、債務者や判決を受けた者で支払い能力があるのにもかかわらず、7割が逃亡、責任逃れ、抵抗などで支払いを拒否しており、法の執行力が弱かった。(人民ネット2013年7月20日)。なお、中国人民銀行は、2013年に3月に、中国における信用情報の監督機関となり、市場化が開始されている。
3 信用中国ウェブサイト、「2018社会信用十大進展」(2019年1月2日発表)。
4 個人(自然人)のみならず、法人についても適用されている。
5 「最高人民法院关于限制被執行人高消費的若干規定」(2015年7月改定版)。最高人民法院のウェブサイトの統計によると、2018年12月4日までで、公表された失信被執行人のリストは1,261万例、飛行機への搭乗が制限されたのはのべ1,653万人、列車への乗車制限はのべ540万人であった(2018年12月5日アクセス)。