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医薬品は肝臓であまり代謝を受けないことが必要
消化管から吸収された医薬品は、血管内に入る。点滴で投与された医薬品も、直接、血管内に入る。通常、これらの医薬品は、門脈という静脈を通って肝臓に向かう。そして、肝臓で代謝を受けた後、再び血流に乗って患部に向かう。
肝臓では、門脈を介して解毒や、糖質の貯蔵が行われる。肝臓には、さまざまな代謝酵素があり、異物とみなされた化合物は、代謝・分解が進められる。医薬品は、肝臓で代謝・分解されると、老廃物や毒素などとともに腎臓に送られて排泄されてしまうため、患部にたどり着けない。そのため、肝臓であまり代謝を受けない化合物であることが必要となる。
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細胞内に入って細胞内受容体に結合する医薬品は、細胞膜を通過しなくてはならない
医薬品がターゲットのタンパク質と結合するのは、患部の細胞近辺である。医薬品には、細胞外で細胞膜の受容体(タンパク質)と結合するものと、細胞内に入り込んで細胞内受容体に結合するものがある。ここでは、細胞内に入り込む医薬品について考えてみよう。
細胞膜は、脂質成分でできている。このため、細胞膜を通過して細胞内に入るためには、脂溶性を持つほうが有利となる。しかし、脂溶性を高め過ぎると、タンパク質との結合が阻害されて、医薬品としての効果が減じてしまう。このため、適度な脂溶性が求められることとなる。
また、細胞膜の通過については、医薬品の分子の大きさ(分子量)の問題もある。分子量が大きい医薬品は、細胞内に入り込むことが難しい。通常、細胞内に入るには、分子量500以下の化合物であることが必要とされる。一方で、医薬品が結合するタンパク質の大きさは、分子量が数万程度のものが一般的である。つまり、細胞内に入った医薬品は、自分よりも100倍くらい大きなタンパク質に結合して、その働きを制御することが求められる。
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脳神経中枢に作用する医薬品は、血液脳関門を通過しなくてはならない
精神疾患などに対して脳神経中枢に作用する医薬品については、さらに大きなハードルが存在する。脳の中の血管には、「血液脳関門」という血液中の異物を遮断するバリアがある。これは、血管の内側を覆う血管内皮細胞で構成されている。医薬品は、このバリアをくぐり抜けないと、脳神経中枢に作用できない。このため、分子量が小さく、脂溶性が高い化学構造の化合物であることが必要となる。
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医薬品は、ターゲットのタンパク質に正しく結合しなくてはならない
体内のタンパク質の種類は多い。中には、構造がよく似たものどうしもある。医薬品がターゲットとするタンパク質によく似た、別のタンパク質があると、医薬品がその別のタンパク質と結合してしまう恐れがある。医薬品は、ターゲットのタンパク質に正しく結合する必要がある。
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医薬品は、血液内で一定の濃度で安定的にとどまることが必要
医薬品は、一定の時間が経つと、分解、排泄される。薬効が生じる前に分解されてしまったり、逆に排泄されずに体内に蓄積されてしまったりすると、医薬品本来の役割を果たすことができない。
また、わずかではあるが医薬品はそれ自体毒性を持つことが一般的とされる。このため、医薬品の血中濃度を高めようとして投与量を多くすると、毒性が高まったり、副作用が出たりすることもある。
医薬品が薬効を示すためには、一定時間、安定した濃度で血液中にとどまることが条件となる。
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複数の医薬品を投与すると、相互作用が生じることがある
複数の医薬品を投与する場合には、さらに注意が必要となる。医薬品どうしで、相互作用が生じることがあるためである。相互作用には、「薬物動態学的相互作用」と「薬力学的相互作用」がある。