コラム

大型新規公開株の影響が投信市場に~2018年11月の投信動向~

2018年12月05日

(前山 裕亮) 株式

国内株式と外国株式への資金流入が鈍化

2018年11月の日本籍追加型株式投信(ETFを除く)の推計資金流出入をみると、国内株式、外国株式、バランス型に資金流入があった【図表1】。ただ、国内株式と外国株式への資金流入は10月と比べて大幅に鈍化した。10月は国内株式、外国株式ともに3,000億円を超える資金流入があったが、11月はともに10月の半分程度の資金流入であった。
外国株式の資金流入鈍化は、個別ファンドからも見て取れた。10月に200億円以上の資金流入があった外国株式ファンドが5本あった。それが11月は、外国株式ファンドに限らず資金流入が200億円を超えたファンドはなかった【図表2】。11月に最も人気だった「netWIN GS インターネット戦略Bコース(為替ヘッジなし)」でも、9月、10月と2カ月続けて300億円以上の資金を集めていたが、11月は200億円に届かなかった。

販社の都合だったかもしれない?

外国株式への資金流入は、なぜ急減速したのだろうか。11月は世界的に株価の値動きは荒かったが、月を通じてみると10月のように大きく下落することはなかった。実際に人気の外国株式ファンド6本(青太字)については、11月の月間収益率は全てプラスであった。特に、米中間選挙の結果を受けてオバマケアが維持される見込みが高まったことが追い風になり、足元で人気が高まっているバイオ・ヘルスケアのテーマ型の外国株式ファンドは総じて好調であった。株価が急落した10月ですら冷え込まなかった外国株式への投資意欲が、11月に減退したとは考えにくい。
 
外国株式への資金流入鈍化は、市場環境や投資家以外に原因があったと思われる。要因の一つとして販売会社があげられる。元々、大手証券会社などでテーマ型の外国株式ファンドは積極的に投資家に推奨され、販売されている。つまり、大手証券会社がテーマ型の外国株式ファンドの主な販路の一つといえる。11月は翌月に売り出し額が2兆円を超える国内新規公開株式の大型上場が控えていた。大手証券会社では、国内新規公開株式の対応で投信の販売まで手が回らなかった、もしくは普段、テーマ型の外国株式ファンドを奨めている投資家にも、テーマ型の外国株式ファンドの代わりに新規公開株式を奨めていた可能性がある。そのため、テーマ型を中心に外国株式ファンドへの資金流入が鈍化したのではないだろうか。
 
11月に資金流入が多かった10ファンドのうち3本(赤太字)は、10月と同規模の資金流入があり、10月から変らず堅調に資金流入があった。これらのファンドの販売会社を確認すると大手証券会社以外が主な販売経路であることが推察され、新規公開株式の影響を受けにくい販売経路のファンドであった。そのことからも、11月は販売経路が販売動向に影響した可能性が示唆される。

国内株式の逆張りの傾向は続くが、慎重になっている面も

国内株式の資金流入の鈍化は、インデックス・ファンドへの資金流入が大きく減少したことが大きかった。10月は国内株式のインデックス・ファンドへ2,300億円の資金流入があったが、それが11月は500億円に減少した。
 
インデックス・ファンドへの資金流入の急減速は、国内株式の変動が大きく影響したと思われる。インデックス・ファンドは逆張り投資にも活用されている。11月は、日経平均株価が一時21,500円台まで下落したが月末に日経平均株価が22,300円台まで回復し、国内株式は月を通してみるとやや上昇したためである。

国内株式インデックス・ファンドの日次の資金動向をみると、日経平均株価が500円近く下落した翌営業日の14日には150億円に迫る資金流入があった【図表3】。その一方で、日経平均株価が22,000円を超えると資金流入が止まっていたことが分かる。特に、日経平均株価が500円以上上昇し22,000円台を回復した翌営業日の5日、22,500円に迫った翌営業日の14日、月末の29日、30日は、流出金額自体は小額であったが資金流出に転じていた。
11月も国内株式インデックス・ファンドの資金流出入からは逆張り傾向が顕著で、特に日経平均株価22,000円の水準が意識されていたことが確認できた。ただ、14日以降も22日に反発するまで株価は低迷し資金流入が続いていたが、やや小規模の資金流入だった。日経平均株価が21,500円割れ目前に迫った翌営業日の21日、22日でも50億円程度であった。下値でさらに買い増す投資家は少なかったことがうかがえる。国内株式の先行きに対して慎重になっている投資家も多かったのかもしれない。

一部の新興国関連ファンドが好調

11月はインドネシア株式、トルコ債券、インド株式などの一部の新興国関連ファンドが好調であった【図表4】。新興国関連ファンドは米国の利上げの悪影響が懸念され、総じて厳しい投資環境が続いていた。11月に米利上げペースが鈍化するとの期待が膨らみ、さらに原油安に伴いインフレ懸念が後退したことも追い風となり、一部の新興国関連ファンドは11月の収益率が10%を上回った。しかしながら、好調であった11月を含んでも過去1年の収益率はマイナスの新興国関連ファンドが多かった。それまでいかに厳しい投資環境であったことが分かる。
 
 

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金融研究部   主任研究員

前山 裕亮(まえやま ゆうすけ)

研究領域:医療・介護・ヘルスケア

研究・専門分野
株式市場・投資信託・資産運用全般

経歴

【職歴】
2008年 大和総研入社
2009年 大和証券キャピタル・マーケッツ(現大和証券)
2012年 イボットソン・アソシエイツ・ジャパン
2014年 ニッセイ基礎研究所 金融研究部
2022年7月より現職

【加入団体等】
 ・日本証券アナリスト協会検定会員
 ・投資信託協会「すべての人に世界の成長を届ける研究会」 客員研究員(2020・2021年度)

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