WeWorkのビジネスモデルと不動産業への影響の考察

2018年07月11日

(佐久間 誠) 不動産市場・不動産市況

4――おわりに

WeWorkの2017年12月期の売上高は886百万ドルで、884百万ドルの純損失を計上している44。ただし、多額の損失を計上しているのも、現在は収益の多くを投資に回しているためで、40%の営業利益率をあげるだけの収益力があるという45。コワーキングスペースは、IT企業のように利益率が高いわけではなく、また容易にスケールできるわけでもないとされてきた。コワーキングスペース最大手のリージャスは110カ国超の1,000以上の都市で3,125箇所の拠点を運営し250万人もの会員数を抱えるが46、時価総額は23億ボンド(3.4千億円)47にすぎない。そのため、WeWorkへの金融市場の評価は高すぎるとの批判もある48

特に今後、景気後退を迎えた際の持続可能性に疑問を呈する声は多い。コワーキングスペースは基本的には、長期で借りて、短期で貸し出すビジネスモデルで、空室リスクがビルオーナーからコワーキングスペース事業者に移転される。実際、リージャスはITバブルの崩壊で大きな打撃を被った。WeWorkの売上に占める大企業の比率は高まっているものの、資本力に劣り、事業安定性が乏しい事業規模の小さいメンバーが主要な顧客基盤で、景気後退に対して脆弱なことは否めない。同社の持続可能性を高めるためにも、今後は収益源の多角化やプラットフォームとしての競争力が高まることが期待される。

WeWorkへの懐疑的な見方はあるものの、同社のプラットフォーマーとしての進化は始まったばかりで、その実力は未知数だ。現段階で過小評価はすべきでない。WeWorkは不動産業界に新しい風を吹き込み、不動産業というビジネスを問い直すきっかけをもたらした。WeWorkの最大のイノベーションは、オフィスを「ただの空間」としてではなく、「様々なニーズを満たすための空間」として提供した点にある。それにより、オフィスに新しいレイヤーを追加し、プラットフォーム化することを可能にした。またプラットフォーム化することで、大量のデータの蓄積が可能となった。これが、快適に働けるワークプレイスの提案につながり、同社の事業拡大の原動力となっている。同社がもたらしたイノベーションは、人口減少などにより先細りが懸念される日本の不動産業にとって、ビジネスモデルを問い直す上で有益な視座を提供している。
 
44 Scaggs and Platt (2018) 参照。
45 Loizos and Neumann (2017) 参照。
46 IWG (2018) 参照。
47 リージャスの持ち株会社であるIWG plcの2017年12月末時点の時価総額(出所:Bloomberg)。
48 Gelles (2015)、Sidders and Turner (2017) 参照。

(参考文献)

金融研究部   主任研究員

佐久間 誠(さくま まこと)

研究領域:不動産

研究・専門分野
不動産市場、金融市場、不動産テック

経歴

【職歴】  2006年4月 住友信託銀行(現 三井住友信託銀行)  2013年10月 国際石油開発帝石(現 INPEX)  2015年9月 ニッセイ基礎研究所  2019年1月 ラサール不動産投資顧問  2020年5月 ニッセイ基礎研究所  2022年7月より現職 【加入団体等】  ・一般社団法人不動産証券化協会認定マスター  ・日本証券アナリスト協会検定会員

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