返礼品に頼らなくても、ふるさと納税を集められる使途とは何だろうか。地方団体の取り組みに対する支援の一環として、2018年3月30日に総務省は「ふるさと納税活用事例集」を公表した。これは、ふるさと納税の使途や成果を明確化する取り組みや、寄附者と継続的なつながりを持つ取り組みを全国に広げていくため、各地の好事例をとりまとめたものである。つまり、返礼品に頼らなくても、ふるさと納税が集まった使途を取りまとめたものではない。掲載された全60事例のうち、57事例は返礼品の送付を伴っていた可能性が高い。これらの事例は、寄附者の目的は返礼品だが、使途が提示されていたので、副次的に使途を選んだだけかもしれない。返礼品に頼らずにふるさと納税を集めた事例は「熊本地震からの復旧・復興に向けて」(熊本県熊本市)と「こどもたちに本を贈ろうプロジェクト」(京都府長岡京市)、そして「命をつなぐ『こども宅食』でこどもと家族を救いたい」(東京都文京区)である。これら3つの事例を参考に、返礼品のように馴染みのない納税者から寄附を集めることが期待できる使途、つまり馴染みのある納税者が限られる自治体が参考にできる使途を考えたい。
まず、熊本市は政令指定都市ではあるが、熊本地震からの復旧・復興ということで、熊本市に馴染みのない納税者から多くの寄附が集まったに違いない。これは寄附金の使途や、熊本市への寄附金額と熊本市からの流出額の比較から明らかだ。しかし、被災地以外の自治体にとって、このケースは参考にならない。
次に、長岡京市は、京都市と大阪市との間に位置し、両政令指定都市を結ぶ2路線(JR京都線と阪急京都線)が通る交通アクセスにも恵まれた都市部である。このプロジェクトは学校図書館に本を寄贈することを目的とし、累計納入冊数は1,500冊に上る。そのうち、少なくとも約300冊は、市外在住の卒業生からの寄附分である。寄附が集まった原動力として、使途が明確で、寄附先の学校や贈る本まで指定可能であったことに加え、長岡京市に馴染みのある納税者が一定数いたこともあるだろう
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最後に、文京区のケースであるが、文京区が都市部であることは説明するまでもない。このプロジェクトは、生活困窮世帯に対して、食品を自宅へ配送することを目的とし、寄附件数は2,310件に及ぶ(2018年2月末時点)。文京区に馴染みのある納税者からの寄附もあるだろうが、文京区におけるふるさと納税利用者数や、文京区からの流出額なども勘案すると、使途の趣旨に賛同した文京区に馴染みのない納税者からの寄附も少なくないと考えられる。
生活困窮世帯に対する支援なら、馴染みのある納税者が限られる自治体でも、返礼品に頼らずに寄附を集められる可能性が高い。また、昨今なら、小中学校の耐震化や設備の安全性確認といった使途でも、寄附を集められるかもしれない。しかし、これらの使途は、ほぼ全ての自治体が抱える使途であるうえ、人口の多い都市部ほど多額の費用を要する。結局、都市部に多額の寄附金が集まることになるのではないか。もちろん「離島のハンデを乗り越えるためICTで教育充実」(長崎県五島市)や「『のってこらい』過疎地の交通手段を確保」(三重県熊野市)などの地方部ならではの使途もあるが、待機児童の解消など都市部ならではの使途もある。都市部自治体が、長岡京市の成功事例を参考に、使途を待機児童の解消に限定するだけでなく、保育施設の整備エリアを指定可能とすれば、納税者の心に響くのではないだろうか。いずれにせよ、人口が多いゆえに都市部ほど多額の費用を要することに変わりない。
総務省の目論見通り、ふるさと納税の使途に注目したふるさと納税制度の活用が進めば、人口を多い都市部ほど寄附金が集まりやすくなるのではないだろうか。
4 長岡京市の人口は8万人程度と決して多くないが、総務省「28年度個人の市町村民税の納税義務者等に関する調」によると、納税者数の多い市区町村上位20%に含まれる。「こどもたちに本を贈ろうプロジェクト」への寄附件数(2016年度15件、2017年度20件)と比較すれば、十分な納税者を抱える。