2|メディアの報道と周知度
次にメディアの報道ぶりを見る。図1は朝日新聞と読売新聞のデータベースを使い、「障害者差別解消法」「合理的配慮」のキーワードが両新聞に登場した回数を調べた結果である。検索に際しては障害者差別解消法(検討当初の名称は障害者差別禁止法)の議論が本格化した2012年から2017年までのデータを取った
15。
ここから言えることは3点あると考えられる。まず、障害者分野の関心の低さである。障害者分野の政策は障害者差別解消法だけではないが、登場回数の最高は2016年の朝日新聞163件であり、ほぼ毎日のように制度改正の動向や現場・利用者の声などが報じられている医療・介護と比べると、決して多いとは言えない。つまり、依然として社会の関心が低いと指摘せざるを得ない。
第2に、2016年の障害者差別解消法施行を境に、登場回数が増加している点である。法律の施行に伴って記者の関心を惹き付けただけでなく、啓発イベントが開催されたり、対応要領やパンフレットなどが作成されたりしたことで、記事として取り上げやすかったのであろう。しかし、2017年は早くも半分程度に下がっており、ニュースバリューが下がったことが推察される。
第3に、「障害者差別解消法」の登場回数に比べると、「合理的配慮」の登場回数が半分から3分の1程度にとどまっている点である。この差は障害者差別解消法を説明する際、合理的配慮の文言を用いていない可能性を意味している
16。つまり、合理的配慮という単語が難解なイメージを持たれやすく、そのコンセプトも一言では説明しにくいため、記事化に際して忌避されている可能性がある。筆者個人の経験で言うと、複数の記者から「国がルールを一律に決めるのであれば分かりやすく報じられるけど、現場の個別対応を重視する合理的配慮を短い紙幅で説明するのは難しい」と言われたことが何度かある。こうした記者の判断が両者の差として現れているのではないだろうか。
しかし、合理的配慮を説明しなければ、障害者差別解消法を理解しにくいのは事実であり、「障害者差別解消法のコンセプトがどこまで読者に伝わり、社会に浸透しているか」という点で考えると、課題は多いと言わざるを得ない。
実際、内閣府の世論調査を比べても、5年間で障害者差別解消法の周知度はほとんど変わっていない。冒頭に触れた通り、内閣府は2017年の世論調査で障害者差別解消法の周知度を尋ねており、ほぼ同じ質問項目で周知度を聞いた2012年の世論調査
17との比較が可能である
18。2つの調査を比較すると、内容を含めて知っていると答えた人は5年間で4.3%→5.1%と微増したに過ぎない。
さらに、2017年の「内容は知らないが、法律ができたことは知っている」という回答と、2012年の「内容は知らないが、検討を行っていることは知っている」という回答と比べると、20.9%→16.8%に下がっている。こうした点を踏まえると、障害者差別解消法が依然として社会に浸透したとは言えず、官民の関係者による周知が求められる。
15 図の作成に際しては、2つのキーワードだけで検索したため、「障害者差別禁止法」「合理的な配慮」など類似の表現は含んでいない。
16 もう一つの可能性として、記事で「合理的な配慮」という文言を用いている場合、表1に反映されない可能性がある。そこで、記事がダブルカウントされる可能性を度外視して「合理的配慮」「合理的な配慮」のキーワードで検索した件数を足し上げても、大きな傾向に変化は見られなかった。
17 2012年7月内閣府『障害者に関する世論調査』。回答数は1,913人。
18 2012年7月の調査は法律制定以前であり、内閣府の障がい者制度改革推進会議差別禁止部会で法律の制定に向けた検討が進んでいる最中だった。このため、質問は「障害者差別禁止法(案)(仮称)」の検討の周知度」、選択肢は「検討の内容も含めて知っている」「内容は知らないが、検討を行っていることは知っている」「わからない」「知らない」となっている。これに対し、2017年8月の調査では「障害者差別解消法の周知度」を問うとともに、「法律の内容も含めて知っている」「内容は知らないが、法律ができたことは知っている」「わからない」「知らない」という選択肢に変わっており、名称や設問、回答の選択肢が異なる点には留意する必要がある。