4|宅地化農地を保有する理由から生産緑地が増える可能性もある
では、宅地化農地を保有するのは、宅地需要が低く転用したくても買い手が付かないといった理由からだけなのだろうか?
これについて、全国農業会議の調査によると、宅地化農地を生産緑地にしない理由として、「一部を自由にしたいから」が約63%、「30年の行為制限が厳しい」が約43%、「500㎡未満である」が約36%と、これらをあげる割合が高くなっている。(図表14)
「一部を自由にしたいから」というのは、生産緑地の行為制限に対し自由に土地利用したいという意味と、一部必要に応じていつでも自由に売却できるようにしておきたいという意味であろう。
転用できる農地を残しておくのは、何らかの資金需要に備えるものと考えられる。保有農地すべてを営農することが厳しくなった場合に、一部を転用して賃貸住宅経営などで収入源を得ることを考慮している場合もあるのではないか。
生産緑地に相続税納税猶予制度を適用している場合は、終身営農が義務付けられるため、営農が厳しい状況になったとしても辞めるわけにいかない。辞めれば猶予税額を支払わなければならないからだ。農業後継者が定まるまで何とか継続するためにも、保有農地の一部は転用が容易な宅地化農地にしておくといった事情もあるのだと思われる。
「30年の行為制限が厳しい」もあわせて、生産緑地制度が営農以外の行為を厳しく制限していることで、かえって宅地化農地の保有につながっている状況が読み取れる。相続税納税猶予制度の終身営農義務も含めて、生産緑地で営農することからくる不安が、宅地化農地をあえて市場に開放しないで保有しておく状況を生み出している。
「500㎡未満である」は、生産緑地の指定面積要件未満ということだが、この中にはいわゆる道連れ解除
21のものも含まれていると思われる。しかし、これまで市区町村が買取るケースは限られてきたことを考えると、最初から生産緑地に指定できなかったものの、宅地化もせずに農地を継続してきたものが多いと考えられる。
こうした状況に対し、昨年の生産緑地法の一部改正により、行為制限や面積要件が緩和され、今後、都市農業の貸借円滑化法案が成立すれば、貸借した場合も相続税納税猶予制度が適用できるようになる。生産緑地で営農することの不安は大きく解消されるはずだ。
これによって宅地化農地の多くが転用されることになるだろうか?そうとも言えない。東京都の調査では、宅地化農地保有農家に対し、宅地化農地の今後の利用意向を聞いているが、全体の約45%が、「農地として維持したい」で、「宅地などへ転用したい」の約29%を大きく上回っている。さらに、市民農園にしたい、他の農業者へ貸したいという回答もあり、農地として維持していく意向が強く結果に表れている。(図表15)
制度改正によって、これが一気に逆転するとは思えない。むしろ
強い農地維持意向を反映してこれを機に、生産緑地に追加指定するケースが増えるのではないだろうか。