人手不足に起因する物流コスト上昇が喚起する物流施設への需要(1)~人手不足に呼応した物流コストの動向について

2018年03月02日

(吉田 資) 不動産市場・不動産市況

(4) 物流コストは、今後も下がりにくい状況が継続
総務省「労働力調査」によれば、道路貨物運送業の就業者(トラックドライバー)において20~30代の占める割合は減少傾向にあり、2017年時点では約3割に留まっている。今後は高齢ドライバーの退職等が加わり、トラックドライバーの不足はさらに深刻化・長期化する可能性が高い(図表-13)。
また、物流施設内で作業するパートタイマーは、(1)60代男性(主に定年退職後の男性)や、(2)40代女性(主に主婦層)が多いことが特徴である(図表-14)。国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成29年推計)」によれば、(1)60代男性および(2)40代女性の人口は10年間で10%以上減少する見通しであることから(図表-15)、今後も物流施設内で働くパート従業員不足が継続する公算は高いと思われる。
前述の通り、最新技術を活用し物流の現場における人手不足(トラックドライバーおよび倉庫内作業員不足)を解消する取組みが進んでいる。しかし、車体が大きいトラックの運転自動化に関しては、重大事故防止の観点から乗用車よりも高度な制御技術が必要となる等、技術・安全面でクリアすべき課題が多い。

また、物流施設の自動化・機械化に関しても、受注があった商品を棚から選びだす「ピッキング」や、トラックへの積み込み等の作業については、一部の企業でサポートロボットの導入が始まっているものの、完全自動化には至っていない。「ピッキング」について、商品の大きさ・形・堅さ等は千差万別である上に、空いている棚に入荷されるケースが多く、取り出す場所も日々変化する。トラックへの積み込みも、商品を保護するため、商品の形状・特性によって積み方を随時変える必要がある。ロボット機器等がこれらの事象に臨機応変に対応するためには、まだ課題が多い。

2017年12月に日本ロジスティクスシステム協会が実施したアンケート調査においても、最新技術の導入により2020年までにドライバー不足および倉庫内作業員不足が解消できるとする回答は少数である(図表-16)。

運転自動化や、物流施設の自動化・機械化への取組みの効果は現れるまでには相応の時間を要すること、労働環境改善の取組み(標準貨物自動車運送約款の改正等)も物流コストの押し上げ要因となることから短期的には、物流コストが下がりにくい状況が続くと見込まれる。
今後も物流コスト上昇が見込まれる中で、企業は積極的にコスト削減策に取り組むだろう。次回は、物流コスト削減の取組みが喚起する物流施設への需要とその方向性について考察する。
 
 

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金融研究部   主任研究員

吉田 資(よしだ たすく)

研究領域:不動産

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

経歴

【職歴】
 2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
 2018年 ニッセイ基礎研究所

【加入団体等】
 一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

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