注目される移民政策の行方-DACAの期限が迫る中、「国境の壁」建設とのせめぎ合いで移民政策議論が本格化

2018年01月19日

(窪谷 浩) 米国経済

■要旨
  1. 若年層の不法移民救済策であるDACAの廃止期限が18年3月に迫る中、18年度の暫定予算審議と絡めて代替案の動向が注目されている。
     
  2. トランプ大統領は、国内の犯罪やテロの防止、米労働者の就業機会が奪われていることなどを理由に、不法移民対策の強化、合法移民の流入制限などの移民政策方針を示しており、その中には国境警備強化としてメキシコとの国境に壁を建設することも含まれる。
     
  3. 米国内には海外で出生(foreign-born)した移民が約44百万人おり、そのうち不法移民は約11百万人を占めている。国別ではメキシコからの流入が移民全体の3割弱を占めて突出している。一方、移民の年齢構成は働き盛り(25から54歳)の比率が高く、労働力人口のおよそ2割弱を占めるほか、農林水産業やサービス業など一部業種では不可欠な戦力となっている。
     
  4. トランプ大統領が目指す移民対策強化によって、不法移民の大幅な減少や将来の移民流入が制限されることによって、労働力人口の減少や高度人材の確保が困難になるなど、米経済にネガティブな影響がでるとみられる。また、注目されているDACAについても、廃止が経済に悪影響があるとの見方が優勢な上、国民的な支持も高い。
     
  5. 移民政策は、インフラ投資や通商政策と並んで18年の重要政策課題とみられることから、今後の動向が注目される。
■目次

1.はじめに
2.米国の移民状況
  ・(移民人口):不法移民も含む移民人口(16年)は43.7百万人(人口対比13.5%)
  ・(出身国):メキシコからの流入が高水準、不法移民ではさらに顕著
  ・(居住地域):カリフォルニア州に集中
  ・(年齢構成):米国生まれに比べ、働き盛り(25-54歳)の比率が高い
  ・(労働力人口):移民の労働力人口(17年)は17.1%と人口シェアを上回る水準
  ・(業種別雇用者数)農林水産業、建設業、娯楽・宿泊で高い
3.移民対策強化の経済への影響
  ・(高度人材の不足)就業ビザ発給審査厳格化の影響が顕在化
  ・(労働力への影響)移民なしでは35年にかけて労働力人口は減少
  ・(DACA廃止の影響)今後10年間で2,830億ドルの損失
4. 今後の見通し・注目点

経済研究部   主任研究員

窪谷 浩(くぼたに ひろし)

研究領域:経済

研究・専門分野
米国経済

経歴

【職歴】
 1991年 日本生命保険相互会社入社
 1999年 NLI International Inc.(米国)
 2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
 2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
 2014年10月より現職

【加入団体等】
 ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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