米国債のフラット化の原因に対する仮説-タームスプレッドとユーロ建て米国債利回りに関する分析

2017年12月26日

(福本 勇樹) 金利・債券

1――フラット化する米国債のイールドカーブ

米国債市場において、イールドカーブのフラット化が注目されている(図表1)。注目される理由は、過去に米国債のイールドカーブが逆イールドになった際には景気後退も生じており、FRBの利上げが米国の好調な景気に冷や水を浴びせるのではないかと懸念されているためである。また、投資家の観点から見ると、米国債のイールドカーブがフラット化すると、米国債利回りとヘッジコストの差が縮小するため、米国外でヘッジ付き米国債に投資する投資家にとって利回りが低下してしまうのも問題点として挙げられるだろう。
米国債利回りのフラット化について議論される際に、最近指摘されているのがタームスプレッドの低下である。タームスプレッドは、短期金利よりも長期金利の方が将来の変動に関するリスクが大きいことを受け入れる代わりに上乗せされる利回りのことである。よって、長期金利は「短期金利の将来予想」と「タームスプレッド」に分解することが出来る。FRBが公表しているタームスプレッドは、2015年以降、度々マイナス値になっている(図表2)。通常は、短期金利のもつリスクよりも長期金利のもつリスクの方が高いはずであり、マイナスになるとは考えにくい。よって、現実に起きている状況は、理論的に説明のつかないレベルで米国債が購入されており、米国債市場の需給が歪んでいるものと解釈できる。
そこで、本稿では、この負のタームスプレッドを生んでいる要因を「ユーロ建て米国債」と「ドイツ国債」の利回り関係から考えてみることにしてみたい。
 

2――ユーロ建て米国債利回りとタームスプレッドの関係

2――ユーロ建て米国債利回りとタームスプレッドの関係

図表3は、ユーロ建て米国債1とドイツ国債の10年利回りの差分と、FRBが公表しているタームスプレッドを並べたものである。全体的にこの2つの動きは連動しているように見える。ドイツ国債よりもユーロ建て米国債の利回りが上昇するとタームスプレッドも上昇しており、逆もまた然りということを意味していると考えられる。しかし、細かくその動きを確認してみると、全く連動していない期間があることも分かる。例えば、2014年の1年間については逆方向に動いている。この逆方向の動きが最終的に2015年以降の負のタームスプレッドを生んだ要因になっている可能性がある。
そこで、ユーロ建て米国債利回りを以下のように米国債利回りとヘッジコストに分解して、「米国債利回りとドイツ国債利回りの差分」と「ヘッジコスト(=米ドルの資金調達コスト)」のおのおのについて、タームスプレッドとの連動性について個別に分析してみたい。
 
  「ユーロ建て米国債10年利回り -ドイツ国債10年利回り」
       =「米国債10年利回り -ドイツ10年国債」 - 「ヘッジコスト」
 
 
1 為替スワップで3ヶ月ヘッジしたときのコストを年率化して、米国債利回りから差し引いている。ヘッジコストについては、「通貨スワップ市場の変動要因について考える-通貨スワップの市場環境が与えるヘッジコストへの影響」(ニッセイ基礎研究所、基礎研レポート、2016年10月19日)等も参照されたい。

金融研究部   金融調査室長・年金総合リサーチセンター兼任

福本 勇樹(ふくもと ゆうき)

研究領域:

研究・専門分野
金融・決済・価格評価

経歴

【職歴】
 2005年4月 住友信託銀行株式会社(現 三井住友信託銀行株式会社)入社
 2014年9月 株式会社ニッセイ基礎研究所 入社
 2021年7月より現職

【加入団体等】
 ・日本証券アナリスト協会検定会員
 ・経済産業省「キャッシュレスの普及加速に向けた基盤強化事業」における検討会委員(2022年)
 ・経済産業省 割賦販売小委員会委員(産業構造審議会臨時委員)(2023年)

【著書】
 成城大学経済研究所 研究報告No.88
 『日本のキャッシュレス化の進展状況と金融リテラシーの影響』
  著者:ニッセイ基礎研究所 福本勇樹
  出版社:成城大学経済研究所
  発行年月:2020年02月

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