これらの事情を背景に、低所得の若年世帯等に対して何らかの手当てが要るのではないかという観点から考えられたのが、最初に述べた新たな家賃補助と家賃債務保証料補助の両制度である。これらは、10月25日施行の改正住宅セーフティネット法に合わせて導入された。住宅セーフティネット法は、高齢者や障害者、子育て世帯など、住宅確保が困難な人たちに賃貸住宅の供給を促進するため、2007年に議員立法で制定された。ただしその内容は、国に基本方針の策定を義務付け、自治体に地域住宅計画への記載を努力義務としたほか、自治体や宅地建物取引業者などが協議会を設立できると定めたもので、理念的なものにとどまっていた。
それを具体的な施策をもって拡充したのが今回の法改正である。その柱は、高齢者世帯が家主から家賃滞納や孤独死の懸念により入居拒否されることを防ぐため、予め受け入れてくれる住宅を都道府県が登録しておく制度を創設することである。都道府県が指定する居住支援法人が、住宅を探す高齢者らに登録住宅について情報提供したり、入居後の見守りをしたりしてサポートする。今後も増加が見込まれる一人暮らしの高齢者を想定したものだが、障害者や若年・子育て世帯等も含めた「住宅確保要配慮者」が対象となる。
この法改正が検討された国土交通相の諮問機関・社会資本整備審議会の住宅宅地分科会「新たな住宅セーフティネット検討小委員会」の中で40歳未満の若年・子育て世帯が抱える住宅負担増加の問題が議論となり、それを改善するために今回の支援措置が設けられた
5。その内容には前述の通り、(1)家賃補助と(2)入居時の家賃債務保証料補助の2種類がある。(1)は登録された住宅の家主に対し、都道府県や市町村が家賃の低廉化のために補助を行う場合に、国が補助額の2分の1を支出するというもので、国と地方を合わせた最大補助額は1戸につき計4万円となる。(2)は入居時に家賃保証業者の利用が必要な場合、業者に支払う家賃債務保証料を補助するというものである。家賃補助制度同様に、都道府県や市町村の総補助額の2分の1を国が支出し、最大額は計6万円となる。
いずれも対象は、高齢者や障害者、子育て世帯、低所得の若年層など、自力で住宅を確保することに困難があると判断される人である。若年世帯等への支援については、セーフティネットの観点だけでなく、「住宅負担が緩和されれば消費拡大にもつながるのではないか」として、経済界からも期待が寄せられている。当初は、改正住宅セーフティネット法に家賃補助制度を盛り込むべきという意見もあったが、最終的には単年度ごとの予算事業として実施されることが決まった。
今後、都道府県や市町村が登録住宅の供給促進計画を策定し、入居者の収入要件など、具体的な内容を定める。詳細が明らかになるのはこれからだ。国土交通省は、家主に登録を促すため、空き家・空き室を耐震改修したりバリアフリー化したりして利用する場合に、収入や家賃水準の要件を満たせば、国と地方を合わせて3分の2補助する支援措置などを併せて設けている。国土交通省住宅局住宅総合整備課への取材によると、今年度は①と②の補助対象としてそれぞれ約5千戸を見込んでおり、2018年度は初年度より多くそれぞれ約1万5千戸を見込んでいるという
6。
5 国土交通省は、2018年度概算要求で「公的賃貸住宅家賃対策補助」として116億2,800万円を計上しているが、この中には今回設けられた新たな入居負担軽減制度のほか、公的賃貸住宅に対する補助などが含まれている。
6 国土交通省は「新たな住宅セーフティネット検討小委員会」において、2013年時点で公営住宅の入居対象となる低所得世帯のうち、公営住宅以外の賃貸住宅で最低居住面積を下回る部屋に居住し、かつ家賃負担が年収200万円以下世帯の平均負担率を上回る「高家賃負担」の世帯は約28万世帯いるという推計を公表している。2018年度までの補助対象戸数の見込みは、この世帯数をはるかに下回る。また、支援を必要とする若年世帯等には、約28万世帯のうち一部が想定される他、住宅負担を避けるために現在は実家暮らしを続けている単身者もいると考えられるため、支援対象の規模に関してはより詳細な推定が必要である。
4――おわりに ~少子化対策として住宅サポートの充実を~