10年越しのGST導入 インド経済どう変わる?

2017年07月31日

(斉藤 誠) アジア経済

■要旨
 
  • 17年7月、全国一律の物品・サービス税が導入された。インドの間接税は種類が多い上に各州で税率が異なり、その複雑さがビジネスの阻害要因となっていたが、間接税のうち17の税及び特定目的の23の課税をGSTに統合すると共に、州をまたぐ取引に生じた仕入控除の問題を解消するなど、ビジネス環境は大幅に改善した。
     
  • 中長期的な経済への影響としては、企業はサプライチェーンの最適化や輸送コストの低減を通じて生産性が向上し、成長分野への投資や輸出を拡大させるほか、外国資本の流入も拡大しよう。また企業収益の拡大は、雇用・所得環境の改善や配当の増加、商品価格の値下げへと波及する。こうして家計は所得の増加とインフレ率の低下という形でGSTの恩恵を享受することになり、消費は拡大するものと見込まれる。
     
  • また政府部門では課税逃れが減少して税収が増加する。これによって経済政策が進めやすくなるほか、財政健全化の進展が評価されてインドのソブリン格付けが格上げされることになれば経済全体へのプラスの波及効果が生じるだろう。
     
  • GSTの制度は州政府に対する譲歩と低所得者への配慮からシンプルとは程遠いものとなったが、従来の間接税体系と比べれば、税制が大幅に簡素化されたことは確かだ。10年超の議論を続けたGSTを導入までこぎつけたことはモディ政権最大の成果と言える。新制度への移行に伴う混乱はつきものであり、今後1-2年の間はGST導入による経済の悪影響が表面化する可能性もあるが、中長期的にはビジネス環境の改善による外国資本の流入は勿論、民間部門と政府部門双方にその恩恵が広がるだろう。

■目次

1――はじめに
2――GST導入の背景と経緯
  2-1|ビジネス環境の改善を目指すモディ政権
  2-2|複雑な税制は企業進出のハードル
  2-3|特に複雑な間接税
  2-4|GST制定までの経緯
3――GSTとは
  3-1|GSTの制度概要
  3-2|GSTの税率区分
4――GST導入の恩恵とリスク
  ・中長期的には、大企業を中心に生産性が向上、政府の税収も増加
  ・短期的には、新制度移行に伴う負担と混乱が生じる
  ・GSTはGDPを0.9~1.7%程度押し上げる
  ・短期的には消費が一時的に落ち込み、徐々に回復へ
5――さいごに

経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠(さいとう まこと)

研究領域:経済

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴

【職歴】
 2008年 日本生命保険相互会社入社
 2012年 ニッセイ基礎研究所へ
 2014年 アジア新興国の経済調査を担当
 2018年8月より現職

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