アメリカ、フランス、イギリス、ドイツなどの先進諸国でもクラウドワーカーが増加しているものの、クラウドワーカーを把握するための公式的なデータはほぼなく
4、現在は民間企業・NPO団体や研究者などの調査結果に頼ってクラウドワーカーの実態を確認するしかない。また、利用できるデータも国によって異なり、一概に比較することは難しいのが現状である。
アメリカの場合は、フリーランスに関する調査を利用してクラウドワーカーの現状を推測するしかない。つまり、過去とは異なり、最近のフリーランスはインターネット上のプラットフォームを利用して仕事を探しているので、フリーランスの現状を見れば、ある程度クラウドワーカーの実態が推測できると考えられる。アメリカの非営利組織であるFreelancers Unionとクラウドソーシングサービスを運営しているUpworkによる調査「Freelancing in America: 2016」によると、2016年時点のアメリカのフリーランス人口は5,500万人にのぼり、働く人の35%がフリーランスという働き方で労働市場に参加しており、2014年の調査と比べて200万人も増加した。また、調査では2020年には働く人の約50%がフリーランスとして働くと予想している。
ヨーロッパの場合、ハートフォードシャー大学のUrsula HuwsやSimon Joyceが2016年2月に実施したインターネット調査の結果からイギリス、ドイツ、スウェーデンにおけるクラウドワーカーの現状を確認することができる(図表1、図表2)。
まず、16~75歳の成人2,238人を対象に行われたイギリスの調査では、回答者の11%が現在クラウドワーカーとして働いていると答えた。年齢階層別のクラウドワーカーの構成比は、25~34歳が全体の 30%を占めて最も高く、次は35~44歳(22%)、16~24歳(21%)、45~54歳(12%)、55~75歳(16%)の順であった。また、男女別の構成比は女性が54%で男性の46%を上回った。クラウドワーカーとして働いている人が増加しているせいなのか、最近イギリスでは自営業者の割合が増加傾向にある。イギリスにおける自営業者の割合は1989年に15.9%とピークに達してから減少し続け、2001年には12.2%まで低下したものの、その後は再び増加傾向が目立っている。2015年におけるイギリスの就業者に占める自営業者の割合は14.9%で、これは50年前の1965年の6.7%に比べて2倍も増加した数値である。
イギリスにおけるクラウドワーカーの年間収入は、5万5千ポンド以上は7%に過ぎず、42%が2万ポンド未満であった。つまり、クラウドワーカーの多くがイギリスの雇用者の平均年収27,271ポンドを下回っていた。クラウドワーカーの場合、業務にかかわる費用をすべて自費で負担していることを考慮すると、手取りの所得水準は上記の金額を下回る可能性が高い。さらに、問題は、クラウドワーカーで働く人の81%が一家の大黒柱であると答えたことである。実際、イギリスのGMB(全国都市一般労組)の調査では、ロンドンで最も評価や所得水準が高いウーバーのドライバーさえ、費用を除いた1時間当たりの収入は5.68ポンドに過ぎないと報告している
5。これは2016年4月時点のイギリスの最低賃金7.20ポンド
6を大きく下回る水準である。
次はスウェーデンの調査結果を見てみよう。スウェーデンでは16~65歳の成人2,146人を対象に調査が行われており、回答者の12%が現在クラウドワーカーとして働いていると答えており、イギリスと大きな差を見せていない。年齢階層別のクラウドワーカーの構成比は、25~34歳が全体の 29%を占めて最も高く、次は16~24歳(28%)、35~44歳(18%)、45~54歳(15%)、55~65歳(10%)の順であった。スウェーデンにおける34歳以下のクラウドワーカーの割合は57%で、イギリス(51%)やドイツ(48%)を上回っている。クラウドワーカーの所得水準は、30万クローナ未満が53%で最も多く、次は30万クローナ以上~49万クローナ未満(34%)、50万クローナ以上~70万クローナ未満(10%)、70万クローナ以上~80万クローナ未満(2%)、80万クローナ以上(2%)の順であり、所得水準が45万クローナ未満の人の割合が全クラウドワーカーの87%を占めた。年収45万クローナは、スウェーデンの雇用者の平均年収37.7万クローナを上回っているものの、問題は年収から社会保険料や税金、そして業務にかかわる費用をすべて自費で負担しなければならないことである。スウェーデンの国民負担率(対国民所得比)が
72014年時点で56.0%であることを考慮すると、スウェーデンにおけるクラウドワーカーの所得水準も高いとは言えないのが現状である。
最後に16~70歳の成人2,180人を対象に実施したドイツの調査では、回答者の14%が現在クラウドワーカーとして働いていると答えた。年齢階層別のクラウドワーカーの構成比は、25~34歳が全体の 28%を占めて最も高く、次は16~24歳(20%)、35~44歳(17%)、45~54歳(19%)、55~70歳(17%)の順でイギリスと大きな差を見せなかった。また、男女別には男性に比べて女性のクラウドワーカーの割合が高かったイギリスとは異なり、クラウドワーカーとして働いている人の割合は男性が16%で女性の12%を上回った。クラウドワーカーの所得水準は、18,001ユーロ以上~36,000ユーロ以下が46%で最も多く、次は18,000ユーロ以下(40%)、36,001ユーロ以上~60,000ユーロ以下(11%)、60,001ユーロ以上(3%)の順であり、所得水準が36,000ユーロ以下の人の割合は8割を超えていた。
ドイツの労働者の平均年収47,748ユーロと比べると、ドイツにおいてもクラウドワーカーの所得水準が低いことがうかがえる
8。