コラム

人材投資、人づくり革命~政権基盤の回復が図れるか

2017年07月03日

(矢嶋 康次) 金融市場・外国為替(通貨・相場)

成長戦略→一億総活躍→人材投資

各種世論調査で安倍政権の支持率が低下している。また7月2日の都議選でも自民党は歴史的な大敗を喫し、政権基盤の回復が急務となっている。

今後、内閣改造・党役員人事、野党が主張する臨時国会の召集や閉会中審査の有無などに注目が集まるが、安倍総理が再び宣言した「経済最優先」で「人材投資、人づくり革命」という看板が実現するのかも注目だ。

過去、安倍政権は経済政策を政権浮揚にうまくつなげてきた。

2013年に特定秘密保護法が成立し、その時に打ち出された経済最優先戦略が法人税の引き下げなどを盛り込んだ「成長戦略」である。2015年に安全保障関連法の成立のときは「一億総活躍」、そして2017年いわゆる「共謀罪」では「人材投資」を打ち出してきた。

政治色が強いもの→その後経済最優先で政策を打ち出し→再び政治色の強いものというサイクルを繰り返し、株価上昇、高支持率の維持を実現してきた。

人材投資への評価:財源問題など「耳触り」のよくない話もまとめきれるか

AIなどが台頭する中、今後ますます人への投資の重要性は増すばかりだ。人材投資を否定する意見は少ないだろう。今回の人材投資も、過去安倍政権が掲げた、成長戦略、一億総活躍、地方創生、女性活躍などと同じようにかなりキャッチーでうまい。 現時点で具体的なものとして挙がっているのが、幼児・高等教育の無償化、社会人の学びなおしの支援、大学再編・淘汰などの大学改革。今後のポイントは幼児教育無償化に必要な1.2兆円の財源捻出の議論が前に進むかだ。

6月に出された骨太の方針には、財源候補として税、歳出削減、新たな社会保険を提示しただけで、詳細はこれから。税に対してはかなり抵抗が強い。また小泉進次郎氏が主張するこども保険も不公平の問題などから反発も強い。

人材投資は耳触りがいいフレーズだが、政治的には財源問題という負担も国民に見せながら決着できるかが政権の経済運営への評価では重要な点だ。

過去の政策への評価:目標が実現されているのか

もうひとつ安倍政権の経済最優先の政策評価で重要な視点は、人材投資という新しい看板がかけられても、過去の政策がきちんと実行されているのか、この評価を忘れてはいけないという点だ。

一億総活躍で掲げた数値目標は進んでいないものも多い。例えば待機児童は、もともと17年度末でゼロにする目標を抱えていたが、先送りされた。6月に新たに2020年度末までに待機児童ゼロにする目標を掲げ「子育て安心プラン」を打ち出し、新たに保育所定員を22万人分整備する方針だが、その財源もまだ見えていない。介護については法定休暇を増加させたが、そもそも根本的な解決には着手できていない。人手不足の中で介護の担い手問題はより深刻になっている。

さらには、6月に会期末を迎えた国会で流れてしまった重要な法案も多い。ギャンブル等依存症対策基本法案や労働基準法改正案などがある。

次の臨時国会でこれらが法案化されるのか、過去の看板政策で積み残しとなっているものが実行されるのか、その点もきちんと見ていく必要がある。

支持率40%がひとつのメルクマール

過去の政権を見ると支持率が40%を下回りだすと、政権失速の可能性が高まる。今後政権の支持率が下がり続けると、与党内にも賛否のある経済政策を先送りさせようとする勢力がでてくることは容易に予想される。

短期的に支持率低下に歯止めをかけ、中期の経済政策を動かし支持率上昇に勢いを付ける両方の運営が必要になっている。いずれにせよ安倍一強に対する岐路との評価が多くの識者からなされているように、今回の都議選の歴史的大敗で、政策運営はかなり難しい局面にはいってしまった。

総合政策研究部   常務理事 チーフエコノミスト・経済研究部 兼任

矢嶋 康次(やじま やすひで)

研究領域:金融・為替

研究・専門分野
金融財政政策、日本経済 

経歴

・ 1992年 :日本生命保険相互会社
・ 1995年 :ニッセイ基礎研究所へ
・ 2021年から現職
・ 早稲田大学・政治経済学部(2004年度~2006年度・2008年度)、上智大学・経済学部(2006年度~2014年度)非常勤講師を兼務
・ 2015年 参議院予算委員会調査室 客員調査員

第54回 エコノミスト賞(毎日新聞社主催)受賞 『非伝統的金融政策の経済分析』

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