電車やバスの利用が困難な地域に居住する高齢者(75歳以上、以下同様)はどれくらいいるのだろうか。「平成25年土地・住宅統計調査結果」を元に推計した結果、最寄りの駅やバス停までの距離が500m以上ある高齢者世帯に属する高齢者は、全国に少なくとも250万人はいると考えられる
3。「少なくとも」とする理由は2つある。第1の理由は、上記の市区町村別のデータを用いているが、人口の少ない一部の市区町村が集計対象外となっているからである。なお、集計対象外の市町村に居住する高齢者は、全体の5%程度なので、これによる誤差は小さい。第2の理由は、参照データの都合上、高齢者世帯に属する高齢者のみを対象としているからである。つまり、最寄りの駅やバス停までの距離が500m以上あっても、子供と世帯を共にする高齢者が対象から外れている。第1の理由と異なり、これによる影響は小さくないと思われる。
250万人のうち、自動車の運転に不安を感じている人の割合を正確に求めることは困難である。そこで、相対的に移動の手段が整備されている都市部を例に、自動車に頼らずとも移動が確保されるならば、運転免許を必要としない人の割合を代用する。東京都、神奈川県、大阪府における高齢者の運転免許保有率はおよそ5人に1人である
4。つまり、自動車に頼らずとも移動が確保されるならば、運転免許を必要としない人の割合は80%である。
以上から、電車やバスの利用が困難な地域に居住する高齢者250万人のうち、可能であれば、マイカーではなく公共サービスを利用したいと考える人は200万人(250万人×80%)程度と推測できる。
次に、高齢者の移動ニーズである。「平成22年全国都市交通特性調査集計結果」によると、高齢者の移動ニーズは、約1.5回である
5。地方都市圏に居住する高齢者の移動ニーズのうち自動車による移動が52%である。つまり、タクシーもしくはデマンド型交通システムの利用ニーズは、一人当たり年間285回(=1.5×52%×365日)である。
最後に、1回の利用当たりの行政負担額であるが、数百円から数千円と自治体によって大きく異なる。各自治体が地域の特性に適した運行形態を選択することで、1回の利用当たりの行政負担額が低減することに期待し、控えめに500円と仮定する。200万人が、それぞれ年間285回移動し、1回の利用あたりの行政負担額が500円なのだから、高齢者の移動手段の確保に年間2,850億円必要となる。対象となる人数や、1回の利用当たりの行政負担額の設定など、控えめに推計したにも係らず、かなりの金額である。
3 「平成25年土地・住宅統計調査結果」が公表する、最寄りの駅やバス停までの距離が500m以上ある高齢者(75歳以上)主世帯数や世帯構成を前提に筆者算出
4 平成27年国勢調査人口等基本集計と、平成28年版運転免許統計を基に算出
5 「平成22年全国都市交通特性調査集計結果」では、人がある目的をもってある地点からある地点へ移動した単位をトリップと定義している。例えば、買物に出かけた場合、往路は買物を目的とした1トリップ、復路は帰宅を目的とした1トリップとしてカウントされている。
4――最後に