生命保険の保険料は、3つの予定率(契約時に予定された基礎率)をもとに計算されている。
過去の統計をもとに、性別・年齢別の死亡者数(生存者数)を予測した数値である予定死亡率、契約の締結・保険料の収納・契約の維持管理などの事業運営に必要な諸経費をあらかじめ見込んだ数値である予定事業費率、資産運用による一定の収益をあらかじめ見込んだ保険料の割引率である予定利率である
2。
予定利率については、保険業法第4条において、保険会社の免許申請時の添付書類として、「定款」、「事業方法書」、「普通保険約款」とともに、いわゆる基礎書類として規定されている「保険料及び責任準備金の算出方法書」に記載されている。
保険業法施行規則第10条において、保険料及び責任準備金の算出方法書に記載すべき事項として、「保険料の計算の方法(その計算の基礎となる係数を要する場合においては、その係数を含む)」が規定されており、予定利率は、保険料の計算の基礎となる係数であるということができる。
金融庁が定めた「保険会社向けの総合的な監督指針」においては、「保険料の算出方法については、十分性や公平性等を考慮して、合理的かつ妥当なものとなっているか」、「予定利率については、保険種類、保険期間、保険料の払方、運用実績や将来の利回り予想等を基に、合理的かつ長期的な観点から適切な設定が行われているか」などが保険商品審査上の留意点として定められている
3。
なお、保険業法は1996年に全面改正されているが、改正前の保険業法(1939年制定)下の保険業法施行規則第6条では、保険料の計算の基礎となる係数として、予定死亡率、予定事業費率、予定利率などが明記されていた。
この予定利率という用語は、保険監督に関する規定を含む旧商法の規定(1898年7月施行)にもとづき、1898年8月、当時の主務官庁である農商務省から発出された農商務省令第5号に記載されており
4、法的には、120年近い歴史を有する用語である。
ところで予定利率という用語は、保険料計算のほか、生保会社の経営破綻などの際にも使用される。
たとえば、生保会社の経営が破綻した場合には、「生命保険契約者保護機構」により一定の契約者保護が図られ、「高予定利率契約」を除き、生保会社が将来の保険金などの支払いに備えて積み立てた責任準備金の90%までは補償される。
ここでいう高予定利率契約とは、破綻時に過去5年間で常に予定利率が基準利率(3%)を超えていた契約であり、補償割合が、90%から[(過去5年間における各年の予定利率-基準利率)の総和÷2]を控除した割合となる
5。
さらに、2003年8月の保険業法改正により、保険業の継続が困難となる蓋然性のある保険会社について、保険契約者などの保護の観点から、すでに締結された保険契約の予定利率の引き下げなど、契約条件の変更を可能とする手続が整備された。この契約条件の変更の際の予定利率引き下げの下限も3%とされている
6。
このように予定利率という概念は、保険契約者にとってきわめて重要な指標となっている。
なお、これまでの主な予定利率の変遷としては、5%(1976年3月~)、5.5%(1985年4月~)、4.75%(1993年4月~)、3.75%(1994年4月~)などとなっている
7。
1996年4月以降、標準責任準備金制度が導入され、標準利率などにもとづいて生保各社が独自に予定利率を設定している[なお、標準利率の水準は2.75%(1996年4月~)、2%(1999年4月~)、1.5%(2001年4月)、1%(2013年4月)、0.25%(2017年4月~)]。
2 「保険料の仕組」、生命保険文化センターホームページ。
3 「保険会社向けの総合的な監督指針 平成28年9月」、金融庁ホームページ。
4 小著「『普通保険約款』という用語-『保険規則』から『普通保険約款』へ」『保険・年金フォーカス』、2017年2月28日。http://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=55162?site=nli
5 「『保険業法等の一部を改正する法律』の一部の施行に伴う保険業法施行令(案)、内閣府令・財務省令(案)、内閣府令(案)等の公表について」、2005年10月12日、金融庁ホームページ。
6 「『保険業法の一部を改正する法律の施行に伴う保険業法施行令の一部を改正する政令(案)』に対する意見募集の結果について」、2003年8月7日、金融庁ホームページ。
7 猪ノ口勝徳「民間生保会社の予定利率の変遷と生保商品動向」『共済総研レポート』No.125、2013年12月。
3――予定利率の開示ルールは存在しない