(1)SCR比率
SCR比率の目標範囲については、AllianzとAXAは200%をベースに設定している。Generaliは経営行動を起こす下限水準のみを公表している。Prudentialはセグメント毎に目標を設定している。AvivaはWorking Rangeという名称で水準設定している。Aegonの目標範囲が他社に比較して低いのは、オランダにおいて各種の長期保証措置の適用を行っていないこと等が1つの要因となっている。
以上のように、監督規制上のソルベンシーへの対応方針は各社各様となっている。
(2)SCR等の算出方法(内部モデルの適用状況)
Allianz、Aviva及びAegonが部分内部モデルを使用している、としている。なお、完全モデルとはいっても、銀行業務等については、適用可能な規制制度に基づいて算出している。完全モデルと部分モデルの区分けは必ずしも明確でない部分もあるが、ここでは各社の公表内容等に基づいている。
内部モデルの適用対象については、母国に加えて、欧州の主要国やアジア等、実質的に米国を除く主要事業国を含めているケースが多い。米国については各社とも同等性評価に基づいている。ただし、米国子会社の資本要件のSCRへの反映方法である「転換率」
1については、150%~300%と幅がある形になっている。
(3) SCR等の算出方法(長期保証措置の適用状況)
ソルベンシーIからソルベンシーIIへの移行における割引率や技術的準備金についての16年間にわたる経過措置、MA(マッチング調整)及びVA(ボラティリティ調整)といった長期保証措置
2の適用については、各国の保険市場の特徴(販売商品や資産運用市場等)に大きく依存している。ここでは、基本的には母国市場での適用状況だけを示しているため、この図表に記載されている内容だけでは、適正な比較はできない面もある。
(4)自己資本の内訳
ソルベンシーIIの資本要件に算入可能な各種自己資本は、劣後性や損失吸収性、期間といった資本適格性からTier1~Tier3 に分類
3され、 それぞれについて算入制限が設定されている。具体的には、「Tier1(無制限)は無制限、Tier1(制限付)はTier1全体の20%未満、Tier3 はSCRの15%未満、Tier2とTier3の合計でSCRの50%未満」となっている。
各社とも、着実にTier1の割合を高めてきており、自己資本のうちTier1の自己資本が7割から9割程度、さらに、Tier1(無制限)がそのうちの8割から9割程度を占めている。
Tier3は、繰延税金資産等が含まれている。
なお、各社とも、既存のTier1 やTier2の劣後債務について、グランド・ファザーリング・ルール(既得権認容ルール)を適用している。
(5)SCRの内訳
SCRのリスク別及び地域別内訳の開示内容については、各社の事業構成等を反映する形で、その方式が異なっている。
リスク別では、各社とも信用リスクのウェイトが高い。ここで、表の「信用」に、(1)デフォールト、スプレッド拡大、格付変更のリスクを全て含めている会社と、(2)これらを一部区分して開示している会社、がある点には注意が必要である。
生命保険と損害保険のウェイトが共に高いAXA、Allianz、Generaliにおいては、保険引受けリスクの構成比も高いものとなっている。なお、PrudentialとAegonは生命保険事業が中心であるが、長寿リスクを1つの項目として挙げており、その割合も1割から2割程度と有意な水準になっている。
株式や金利のリスクはともに、各社における構成比が1割程度となっている。
オペレーショナル・リスクについては、各社とも数%程度の構成比となっている。
地域別内訳は、各社の地域別事業展開を反映したものとなっている。
1 米国RBCのCAL(会社行動水準:Company Action Level)の何%がソルベンシーIIによるSCR比率の100%に相当するのかを示す率
2 長期保証措置(経過措置を含む)の内容及びそのEU各国における適用状況については、筆者による、保険・年金フォーカス「EUソルベンシーIIにおけるLTG措置等の適用状況とその影響(1)~(4)-EIOPAの報告書の概要報告-」(2017.1.10~2017.1.16)を参照していただきたい。
3 Tier1(無制限)は払込資本や剰余金等、Tier1(制限付)はグランド・ファザーリング・ルールに基づく劣後債務、Tier2は、劣後債務、Tier3は繰延税金資産 等である。
5―まとめ(中間)