(大統領令)不用意な発令が目立つ
トランプ大統領は、就任初日に医療保険制度改革法、所謂オバマケアを見直すための大統領命令に署名したほか、就任3日目にはTPP離脱を指示する大統領書簡を発表するなど、前オバマ政権からの政策転換や、政策公約実現の手段として大統領令を活用する姿が目立っている。
しかしながら、就任6日目に署名した、国境の壁の建設準備を命じた大統領命令では、財源について報道官の発言が二転三転した。
さらに、7日目に発令したシリア難民の入国禁止や中東、アフリカなど7カ国からの入国を一時的に禁止する大統領命令では、事前に必要とされる法律的な点検が行われていなかったことが指摘されており、政権運営の杜撰さを示した。
実際、入国禁止令では発令後1週間でシアトル連邦裁判所の判事によって大統領令の一時停止が決定されたほか、トランプ政権が一時停止の無効を訴えた連邦下級裁判所であるサンフランシスコ第九巡回控訴裁判所も、同大統領令に対して憲法違反との判断を示し、一時停止を支持したことから、一時停止の状態が続いている。
同大統領令については、政策遂行のために今後協調すべき共和党議員からも反対する声がでており、トランプ大統領は政治資本を無駄に費消していると言わざるを得ない。
(経済政策)公約実現の可能性は低い
トランプ大統領は、政策目標として今後10年間で2,500万人の雇用創出を実現するとしており、雇用重視の姿勢を鮮明にしている。
同大統領の雇用創出目標は年間当り250万人の創出に該当するが、80年代から00年代にかけての10年間の平均雇用増加ペースを上回る目標となっている[図表4]。
さらに、足元の米労働市場は失業率が5%を下回っているほか、失業者数も僅か760万人程度しか残っておらず、2,500百万人の雇用を創出することは困難だ。
一方、トランプ氏が掲げる政策公約は、主要な政策で議会共和党とスタンスの違いが顕在化しているため、軌道修正を余儀なくされそうだ。
税制改革では個人および法人に対する減税を実施することで認識を共有しているものの、歳出面では考え方に乖離が大きい。議会共和党が国防以外の歳出を大幅に削減することで10年以内の均衡財政を目指しているのに対して、トランプ氏は社会保障について、これまでの水準を維持するとしており、均衡財政の実現は困難だ。実際、トランプ氏が公約で掲げた大型減税を実施すると、債務残高(GDP比)は足元の77%から、10年後に105%に増加することが見込まれている[図表5]。
下院共和党は昨年提示した17年度予算案で10年後の債務残高をGDP比で6割弱に抑える方針を示しているため、債務残高の見通しは大きく異なっており、どのように整合させるのか注目される。
さらに、インフラ投資については、議会共和党の選挙公約にすら入っておらず、財源論も含め、今後の動向が非常に不透明となっている。
実際、共和党上院のトップであるミッチ・マコーネル院内総務が10年間で1兆ドルを超える金額に対して否定的な発言を行っているほか、ラインス・プリーバス首席補佐官も政策の優先順位が高くないと言及しており、インフラ投資については明らかにトーンダウンしている。
このようにみると、税制改革、インフラ投資ともに政策がスムーズに実現する可能性は低く、減税やインフラ投資の規模を縮小するなど、政策公約からのは軌道修正は不可避であろう。