GDP統計の改定で変わった日本経済の姿

2017年01月13日

(斎藤 太郎) 日本経済

■要旨
  1. GDP統計(国民経済計算)は昨年12月に2008SNAへの移行と基準改定が同時に実施され、名目GDP、実質GDP成長率などが過去に遡って改定された。
     
  2. 名目GDPの水準は旧基準では1997年10-12月期がピークとなっていたが、新基準では2016年7-9月期に過去のピークを上回った。また、2016年度以降の名目成長率が年平均2.5%であれば2020年度に政府目標である名目GDP600兆円が達成されることになり(旧基準では年平均3.7%が必要)、目標達成に向けたハードルは大きく下がった。
     
  3. 実質GDP成長率は過去10年平均では旧基準とほぼ変わらなかったが、アベノミクス開始後の2013年度以降が大きく上方改定された。新基準のGDP統計を用いて潜在成長率を推計したところ、これまでゼロ%台前半となっていた足もとの潜在成長率は1%近くまで上方改定された。
     
  4. 基準改定に伴い雇用者報酬が上方改定されたが、国民所得も大きく上方改定されたため、2013年度以降の労働分配率(雇用者報酬÷国民所得)は下方改定された。近年は利子所得の低迷や社会負担増などにより可処分所得が雇用者報酬の伸びを下回り続けており、可処分所得ベースの家計への分配率は2015年度に過去最低水準にまで低下した。
     
  5. GDP統計の改定前後で家計所得の伸び悩みを主因として消費が低迷しているという姿は変わらなかった。経済成長の果実が家計に十分に分配されていないという課題を解決することが、引き続き日本経済活性化のために不可欠といえるだろう。
■目次

●GDP統計の改定で変わった日本経済の姿
  ・2015年度の名目GDPが32兆円の上方改定
  ・新基準の名目GDPは直近がピークに
  ・名目GDP600兆円が近づく
  ・直近3年間の実質GDP成長率が大幅上方改定
  ・潜在成長率は1%近くまで上昇
  ・低下する労働分配率
  ・家計の所得分配率が過去最低水準まで低下
  ・家計の所得分配率を高めることが重要

経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎(さいとう たろう)

研究領域:経済

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴

・ 1992年:日本生命保険相互会社
・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
・ 2019年8月より現職

・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
・ 2018年~ 統計委員会専門委員

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