2-2.タイ
タイは14年5月の軍事クーデター後に政治が安定して以降、景気の回復基調が続いている。16年7-9月期の成長率は前年同期比3.2%増と、4-6月期の同3.5%増からは低下したが、これは経常予算の早期執行や昨年同期に遅れていた公務員給与の引上げ分の支出があったことの反動による影響が大きい。景気の牽引役である観光業は外国人観光客数の二桁増によって好調で、公共投資は鈍化しつつも全体を上回る伸びを続けている。また個人消費は低インフレ環境や8四半期ぶりの農業生産の回復による農業所得の増加によって堅調な伸びを維持している。一方、財輸出は小幅のプラスに転じたとはいえ停滞局面から脱していないほか、民間投資も輸出不振と住宅購入支援策の終了(4 月)の影響で低迷している。
10-12月期は、10月のプミポン国王の死去に伴う自粛ムードの広がり
2で消費が大幅に落ち込み、成長率は下振れるだろう。また二桁増が続いていた外国人観光客数は10月が前年比0.5%増と、中国人を対象とした違法格安ツアーの取り締まり強化によって落ち込んでおり、観光業の景気の牽引力は弱まるものと見込まれる。一方、政府は11-12月に低所得者向けの現金給付(128億バーツ)を支給すると共に、12月には追加の消費刺激策
3を打ち出しており、民間消費の落ち込みを和らげる公算だ。ただし、10月から始まる新年度予算は赤字予算を編成したが、歳出額は前年度比2.6%減となっている。もっとも10-12月期は予算の早期執行によって政府支出の急速な落ち込みは回避されるだろう。
17年は、政府部門による景気の押上げ効果は期待しにくいものの、民間部門の回復によって3%強の底堅い成長が続くだろう。これまで景気を牽引してきた公共投資は大型インフラ整備事業への継続的な資金投入によって底堅い伸びが続くほか、外国人観光客数は違法業者の取り締まりの影響が和らぐなかで回復してサービス輸出も高めの伸びを続けるだろう。財の輸出は、海外経済の緩やかな回復が続くなかで小幅の増加基調が続いて、冷え込んだ民間投資も回復に向かうだろう。一方、民間消費は自粛ムードによる消費者の購買意欲の低下、インフレ率の上昇による実質所得の目減り、高水準の家計債務を背景とする銀行のローン審査の厳格化などが重石となって消費の伸びは鈍化するものと予想する。もっともファーストカー減税で定められた5年間の車両保有義務期間の満了によって自動車の買い替え需要が生じるほか、政府が既に公表した約1,000億バーツの地方振興策、そしてこれまでと同様の所得控除策の実施が見込まれることも消費の下支えとなるだろう。
金融政策は、昨年4月の利下げを最後に政策金利が据え置かれている。先行きも国内経済は底堅い成長が続くことから政策金利は据え置かれるだろう。また今後の物価上昇は中銀目標の1~4%の範囲内に止まると見込み、当面は米国追随の利上げには踏み切らないと予想する。
実質GDP成長率は16年が3.2%、17年が3.2%、18年が3.4%と概ね横ばい圏で推移すると予想する(図表6)。
2 プラユット首相はプミポン前国王が死去した10月13日に服喪期間を1年とすると発表し、国民に娯楽イベントなどを30日間自粛するよう呼び掛けた。
3 政府は(1)12月中の国内旅行関連費用に対する所得控除(上限15,000バーツ、昨年の同様の施策による控除を受けていない場合は上限30,000バーツ)、(2)年末(14~31日)の物品・サービスの購入額に対する所得控除(上限15,000バーツ)を実施している。なお、政府は16年4月にソンクラーンに伴う9日間の休暇中の飲食・旅行費用を対象に所得控除策(上限15,000バーツ)を実施している。