1|ソルベンシーIIにおいて英国が果たしてきた役割
ソルベンシーIIに関する課題の検討においては、これまで英国が大きな役割を果たしてきた。ソルベンシーIIのルールの多くは、英国主導で導入されてきたともみなされている。Brexit(英国のEU離脱)により、英国の影響力が低下していく場合に、今後のソルベンシーIIがどのような方向に向かっていくのか、という点については、極めて注目されるものとなる。
2|Brexit後の英国の位置付けとソルベンシーIIの意味合い
Brexit後の英国の位置付けがどのようになっていくのかという点については、他の分野と同様に、保険業界におけるソルベンシーII規制の検討という点に絞っても、不透明な点が多い。
既に、英国の法制にはソルベンシーIIの制度が導入されているので、仮に英国がEUを離脱したとしても、まずはソルベンシーII制度をベースにスタートすることになる。今後2018年にソルベンシーIIの標準式のレビューが行われることになるが、そのレビューに英国がどのような形で関与できるのかについても明確でない。ただし、少なくとも、Brexitがある限りにおいては、英国が主要な役割を果たしていくことは考えにくく、英国が単一市場のメリットを可能な限り享受できる形になっていたとしても、ソルベンシーII制度構築への影響力が低下することは避けられないものと思われる。
それは、例えば、(1)英国が欧州経済領域(EEA)のメンバーで残ったとしても、ノルウェーの例のように、EIOPA中での決定権を持たず、「オブザーバー」に追いやられることになり、(2)さらには、政治的な決断が行われる場である、欧州議会での代表や欧州委員会での機能を有していない、ことによるものである。
さらには、スイスのアプローチを採用することにより、自ら規制を作成する権限を取り戻すことも考えられるが、この場合でもソルベンシーIIとの同等性評価の問題があるため、ソルベンシーIIから大きく離れていくことは難しいこととなる。
3|Brexitによる影響
ソルベンシーIIに関して、これまで述べてきた課題について、英国の存在の有無が全体の議論に与える影響は決して小さくない。従って、Brexitは、今後のソルベンシーIIの検討の方向性に大きな影響を与えることが想定されることになる。
英国は自国の保険市場の特性もあり、経済価値ベースのソルベンシー制度の推進国であるとみられている。この点、ドイツが、財政政策の健全性に関しては、EUにおいて厳しい方針を貫いているにも関わらず、生命保険会社を巡る状況が超低金利下でかなり苦しい状況にあることから、経済価値ベースのソルベンシー制度の適用については、時間をかけて段階的に進めていきたいと考えているのとは、方針を異にしている。
その意味で、英国がEIOPAのメンバーから離脱することにより、その発言力が低下する形になると、経済価値ベースのソルベンシー制度の推進に一定ブレーキがかかってくるのではないか、とも考えられる。
6―Brexit(英国のEU離脱)の影響-各検討項目-