2|内部モデルの整合性
(1)概要
前回のレポートで触れた項目の中でも、内部モデルにおけるリスク評価の考え方に差異があることについては、繰り返し述べてきた。内部モデルの承認は各国の監督当局の考え方に基づいているため、各国間で必ずしも整合性が図られていないという点が指摘されている。
EIOPAもガイダンス等の発行で対応を図ってきてはいるが、各国それぞれが抱える事情もあることから、なかなか統一的な取扱を決定することは難しい状況にある。
内部モデルの承認を受けた会社数については、英国が突出しているが、国によっては、極めて限定されているケースもある。内部モデルの承認を巡る状況は、各国の監督当局の考え方だけでなく、体制や体力等にも大きく関係している。内部モデルの審査・承認には、会社サイドだけでなく、監督当局サイドにも大きな負荷がかかっている。
(2)内部モデルの整合性の確保に関する考え方
内部モデルとはいえ、その考え方等について、できる限り整合性を確保することを目指していくべきだとの考え方に対して、実際の各種のモデルの適用においては、内部モデルの趣旨からして、各社の状況に応じたリスクに対する多様な考え方を反映したものを認めていくべきだとの考え方もある。
各社のモデルが、同じ考え方やデータに基づいたものに集中していくことは、実際にリスクが発生した場合の対応等において、一方向に集中する動きを加速させることになり、モデル収束に伴う新たなリスクを発生させることになってしまう懸念もある。合理的な理由が存在する限りにおいては、各社の内部モデルによるリスク評価に健全な多様性が存在していることが望ましいと考えられる。結果として、市場リスクに対する様々な見方が存在することが、市場全体として見た場合のリスク分散につながることにもなる。
従って、監督当局の内部モデル承認における考え方においても、例えばリスクに対する見方について、EU内あるいは各国内で必ずしも完全に統一的な考え方に基づいている必要はなく、各国の状況に対応して、各社のリスク管理の考え方が尊重されていくことが適当と考えられる。
ただし、こうしたリスクに対する保険会社各社の考え方については、ディスクロジャー資料等で適切な説明を行って、明確化させていくことが望まれることになる。
3|1年間のタイムホライズン
ソルベンシーIIのリスク測定においては、1年間でのリスク測定が行われている。この限られたタイムホライズンが、資産や負債の時価評価と併せて、保険会社が短期及びボラタイルな資産へ投資する間違ったインセンティブを創り出しているとの批判もあり、「Call for Evidence」に対してもそのような意見が示されている。
1年間のタイムホライズンに基づく指標それ自体は意味があるものと考えられるが、一方で長期投資のデュレーションを反映した長いタイムホライズンでの適切な考察も与えられていくべきと考えられる。
4―ソルベンシーIIの今後の検討課題-実務面の課題-