歯科医療の変化-かかりつけ歯科医は何をすべきか?

2016年12月12日

(篠原 拓也) 保険計理

5|高齢者への在宅歯科医療が始動している
従来、医療は、医療施設に患者が通院・入院して行われることが一般的であった。しかし、高齢化が進み、自宅や介護施設等で生活する高齢者が増えれば、医療施設から、高齢者が生活する地域へと医療の現場は拡大していく。これに伴い、訪問診療や訪問看護の需要が高まっていく。

歯科医療についても同様であり、歯科医師が、高齢者の自宅や介護施設等に往診することが、一般的に行われるようになるものと考えられる。訪問診療を行っている歯科診療所の、数の推移を見てみよう。近年、施設訪問診療は、着実に増加している。それとともに、一時停滞していた居宅訪問診療も、回復しつつある。総じて、高齢者への在宅歯科医療は、徐々に拡大していると言える。
診療報酬では、2016年度の改定で、患者1人あたりの診療時間が20分未満の場合や、同一の建物に居住する患者数が10人以上の場合の報酬が減額された。これは、1人あたりの診療にあまり時間をかけないケースや、施設でまとめて患者を診るケースの報酬を削減することで、しっかりと時間をかけて患者を診療したり、患者宅を1軒ずつ戸別訪問して診療する場合との報酬バランスを適正化したものと言える。なお、この歯科訪問診療では、同一の建物に居住する患者数が10人以上の場合、患者1人あたりの診療時間に関わらず、報酬額は一定とされている。このため、10人以上を診る場合には、時間をかけて丁寧な診療を行うインセンティブが、歯科医師に働かない、という課題が挙げられる21
一方、2014年度に新設された在宅歯科医療推進に関する加算は、2016年度に施設基準が緩和され、適用範囲が拡大された。このように、歯科訪問診療に関する診療報酬は、改定の都度、様々な整備が図られてきている。
 
21 以前 (2012年度改定時) は、同一の建物に居住する患者数が10人以上であっても、2~9人と同額の報酬とされていた。
22 加算額は、1件1,000円。
23 在宅等において療養を行っている患者(同一日に、同一の建物に居住する複数の患者に、歯科訪問診療を行う場合を除く)に対して、20分以上の診療を行った場合の診療料。図表26における、患者1人の場合の報酬 (8,660円) を指す。
6|歯科医師は、かかりつけ歯科医として地域歯科医療を拡充することが期待されている
歯科医療は、歯科診療所を中心に行われている。これまで、歯科診療所は、歯や口腔の健康について、地域の住民が身近に訪れる医療機関として、機能してきた。今後は、この機能を拡充して、診療所に従事する歯科医師が、かかりつけ歯科医として、地域住民の口腔保健に努めることが期待されている。

具体的には、定期健診や予防管理と、補綴を中心とした歯科治療の両面から、地域の歯科医療をサポートすることとなろう。日本歯科医師会が実施したアンケート調査によると、2016年に、かかりつけの歯科医がいると回答した人の割合は、67%に上っている。この割合は、60歳代では77%、70歳代では86%に上っており、高齢者ほど、かかりつけ歯科医を有していることがわかる。高齢化に伴って、これから地域歯科医療を拡充していく上で、歯科診療所を中心とした取り組みが有効であることを、示唆する調査結果と言える。
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