人は時に合理的である-ふるさと納税シリーズ(3)ふるさと納税の変遷が教えてくれる

2016年08月19日

(高岡 和佳子) リスク管理

■要旨

金融工学やファイナンス理論などを学んでいると、「合理的」という言葉をよく目にする。人が合理的に行動することを前提として、多くの理論が成り立っているからだ。しかし、実際は人が合理的に行動しているとは考えられない事例が多く、そのことが世間に広く知られつつある。そのため「合理的」という言葉を聞くと、反射的に警戒心を抱く人が多いように感じる。

そんな中一つ、人々の行動はかなり合理的である例を紹介したい。それは、ふるさと納税制度を巡る人々の行動だ。そこで、ふるさと納税制度の変遷を辿り、この合理的行動を紹介する。

■目次

1――はじめに
2――ふるさと納税利用者の変遷
3――寄附者の合理的行動
  (1)平成25年度から、寄附先分散が主流に
  (2)当初、返礼品は自治体のPR手段であった
4――自治体の合理的行動
  (1)平成27年度制度改正
  (2)送付方針異常あり
  (3)5自治体以下に抑えるのは何故?
5――まとめ
 

1――はじめに

1――はじめに

金融工学やファイナンス理論などを学んでいると、「合理的」という言葉をよく目にする。人が合理的に行動することを前提として、多くの理論が成り立っているからだ。しかし、実際は人が合理的に行動しているとは考えられない事例が多く、そのことが世間に広く知られつつある。そのため「合理的」という言葉を聞くと、反射的に警戒心を抱く人が多いように感じる。

そんな中一つ、人々の行動はかなり合理的である例を紹介したい。それは、ふるさと納税制度を巡る人々の行動だ。そこで、ふるさと納税制度の変遷を辿り、この合理的行動を紹介する。
 

2――ふるさと納税利用者の変遷

2――ふるさと納税利用者の変遷

地方自治体に対する寄附金については、通常の寄附金控除に加え、特例分として、住民税の一定割合まで税額控除額を上乗せする制度、所謂ふるさと納税制度が平成20年に創設された。創設当初の寄附者一人当たりふるさと納税額は20万円程度であり、ふるさと納税制度の利用者数(寄附者数)は3万人程度に限られていた。平成27年より特例分の上限が住民税額の1割から2割まで引き上げられたが、それより前は年収が1,500万円あっても、ふるさと納税を20万円もすると実質負担額が自己負担下限額(当時は5,000円、現在は2,000円)に収まらなかった。つまり、創設当初(平成20年~21年)におけるふるさと納税利用者は、自己負担下限額以上に負担し寄附する共助の精神が高い人1、もしくはお金に余裕のある高額所得者に限られていた。そして、平成22年からふるさと納税の自己負担下限額が5,000円から2,000円に引き下げられた。この引き下げが、近年のふるさと納税利用者層の拡大に寄与したことに間違いはないだろうが、残念ながら即座に利用者層を拡大するには至らなかった。ふるさと納税利用者数が急増したのは平成23年である。これは、東日本大震災で甚大な被害を受けた自治体への支援の手段として、ふるさと納税が活用されたためだ2。なお、平成23年における寄附の大部分が利他的な寄附であったことは疑いようがない3。その反動で平成24年は寄附者数が大幅に減少したが、平成25年以降は再び利用者数は増加に転じた。それと同時に、寄附者一人当たりふるさと納税額が減少している。これは、返礼品に対する認知度が高まり始めた時期に一致する4
 
1 平成20年における寄付金額合計に占めるふるさと納税に係る寄附金税額控除額の割合は26.1%。これが、通常の寄付金控除以外の部分(ふるさと納税に係る寄附金税額控除額が特例分)を指し、かつ全寄附者が自己負担下限額に収まる範囲内で寄付したことを前提にすると、この割合は100%から通常の寄附控除分(当時の所得税の最高税率40%と住民税率10%(基本分))を引いた値50%を下回ることはない。このことから、自己負担下限額以上に負担し寄附する志の高い方が相当数いたと考えられる。
2総務省が公表する「各自治体のふるさと納税受入額及び受入件数(平成20年度~平成27年度)」によると、平成23年度において、被害が相対的に甚大であった東北三県(岩手、宮城、福島、県内市町村を含む)への寄付額が全体の39.2%を占める。
3 平成23年における寄付金額合計に占めるふるさと納税に係る寄附金税額控除額の割合は32.4%であり、依然、自己負担下限額以上に負担する寄附者が相当数いたことが分かる。
4 寄付金額合計に占めるふるさと納税に係る寄附金税額控除額の割合は、平成25年で42.7%に急増(前年対比+7.9%)し、平成26年には54%に達した。
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