(4)ドクターヘリの課題
ドクターヘリは、優れた救命効果など、多くの利点があるが、その反面、いくつかの課題も抱えている。それを簡単に見ていこう。
1) ドクターヘリは、配備機数が限られている
ドクターヘリは配備が進んできてはいるが、まだ配備されていない都府県が9つある。配備機の総数は、50機に満たない。これは、配備や運用にかかるコストが大きいことが、一因となっている。特に、ドクターヘリの有用性が高い離島や僻地(へきち)ほど、費用面から、配備・運用が難しく、救急医療体制が疎かになるという、ジレンマに陥っている
19。
2) ドクターヘリは夜間や悪天候時には運航されない
ドクターヘリは、365日体制であるが、24時間体制ではない。運航時間は、日中となっている。また、雲高300メートル以下や、視程1.5キロメートル以下といった悪天候時にも運航されない。これは、夜間や悪天候の際の有視界飛行に伴う危険性や、飛行地域での夜間騒音問題等があるためとされる。しかし、急病や事故はいつでも発生し得る。ドクターヘリの運行時間の拡大が、今後の検討課題の1つとされている
20。
3) ドクターヘリの出動要請に時間がかかる
ドクターヘリは、一般市民が、直接、出動を要請することはできない。一般市民から通報を受けた、消防機関が、緊急度や重症度をもとに、ドクターヘリを擁する拠点病院に出動を要請する。一般市民からの通報段階で、消防機関が要請をすることも可能ではある。しかし、実際は、多くの場合、現場に駆けつけた救急隊が消防本部に状況の報告を行い、これに基づいて、ドクターヘリの出動を要請している。このため、救急隊が現場に到着するまで、ドクターヘリの出動要請が遅れてしまう。
2009年には、消防法の一部改正が行われ、都道府県は、傷病者の搬送及び受入れの実施に関する基準を策定することとされた。これに併せて、都道府県は、ドクターヘリ等を含めた、「搬送手段の選択に関する基準」を設定できるようになった
21。法制面では、ドクターヘリの効果的な活用に向けた、環境整備が進められている。
17 当時、全国に消防の防災ヘリが37機配備されていたが、ヘリ搬送は、震災当日は1例のみ、発生から3日間でも17例にとどまった。(「『攻めの救急医療』15分ルールをめざして 脚光をあびるドクターヘリの真実」益子邦洋(へるす出版, へるす出版新書016, 2010年)より。)
18 ドクターヘリの配備は、ドイツやスイスで進んでいる。国内のどこにでも、医師が15分以内に駆けつけられるよう、ドクターヘリ基地を配置している。
19 多大なコストへの対応として、国や都道府県からの補助金制度が設けられている。
20 記述にあたり、「『攻めの救急医療』15分ルールをめざして 脚光をあびるドクターヘリの真実」益子邦洋(へるす出版, へるす出版新書016, 2010年)を参考にしている。
21 「傷病者の搬送及び受入れの実施に関する基準の策定について」(消防救第248号, 医政発第1027第3号, 平成21年10月27日)より。