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100年以上の歴史の中で培われてきた文化オリンピアード
文化オリンピアードとは、オリンピック・パラリンピック競技大会の際に開催される文化の祭典のことで、前の競技大会の終了後にスタートし当該大会の終了時まで4年間続けられる。オリンピック・パラリンピック競技大会はもちろんスポーツの祭典であるが、オリンピック憲章の根本原則に「オリンピズムはスポーツを文化、教育と融合させ、生き方の創造を探求する」と記されているとおり、文化もオリンピックを構成する重要な要素となっている。
実際、今から100年以上前、1912年のストックホルム大会から様々な形で文化プログラムが行われてきた。当時は、絵画、彫刻、建築、音楽、文学の5分野の「芸術競技」として実施され、スポーツ同様、優秀作品にメダルが授与されていた。52年のヘルシンキ大会から「芸術展示」という形式に変わり、64年の東京大会でも美術や芸能の分野で多彩な展覧会や公演が行われた。その後、92年のバルセロナ大会で4年間の「文化オリンピアード」の仕組みが導入された。そして、前回のロンドン2012大会では文化オリンピアードと大会開催年の芸術フェスティバルを組み合わせて、五輪史上かつてない規模と内容の文化プログラムが実施され、大きな成果をあげた。
こうした流れを受け、東京2020大会では、ロンドン大会をしのぐ文化プログラムの実施に向けて関係機関が検討を重ねてきた。公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会(以下、東京2020組織委員会)や国・文化庁、東京都などは今年9月のリオ大会終了後からのスタートを目指して準備を進めている。都道府県や市町村の中にも、独自のプランを発表するところが出てくるなど、東京2020文化オリンピアードへの機運は徐々に高まりつつある。
その文化オリンピアードのマークに関して、東京2020組織委員会の今年度の事業計画では
2、「オリンピック・パラリンピックブランドの非営利目的の活用を促すマーク(ノンコマーシャルマーク)を開発し、『東京2020文化オリンピアード』(仮称)、教育プログラム『ようい、ドン!』で活用していくとともに、他のアクション&レガシープランの事業展開においても、認証の仕組みづくりを合わせて検討していく」とされている。
同時に、大会ブランドの適正な利用として、「新エンブレムの使用についての基本的なガイドラインを作成する。また、大会に関する知的財産の不正利用(非スポンサーによるアンブッシュマーケティング等
3)を防止する対策を併せて講じる」とある。周知のとおり、東京2020大会エンブレムは誰もが使用できるわけではなく、厳密なルールが定められる。エンブレムに限らず、東京2020大会と特定できる表現を商業的に利用できるのは大会スポンサーだけで、IOC及び東京2020組織委員会の了解が必要である。
その一方で、近年のオリンピック・パラリンピック競技大会では、できるだけ多くの人々や団体が主体的に参画(engagement)し、オリンピック・ムーブメントを推進することが期待されている。2016年1月に東京2020組織委員会が発表した「東京2020アクション&レガシープラン2016(中間報告)
4」にも、「2020年に向けてオールジャパンで盛り上げていくため、大会に関する多くの企画・イベントを全国で行い、一人でも多くの方、出来るだけ多くの自治体や団体等に、東京2020大会に参画していただきたい」と記されている。アクションは、そのために2016年秋から全国で行われるイベントや取組であり、レガシーはその成果として東京2020大会をきっかけにその後の東京・日本そして世界に何を残していくのか、を示している。
そう考えると、エンブレムの使用を制限することは一見矛盾しているように思われる。そのために検討されているのが、非営利目的の活用を促す「ノンコマーシャルマーク」である。文化オリンピアードでそれを戦略的に活用したのが前回のロンドン2012大会だった。
2 東京2020組織委員会「平成28年度 事業計画書」(H28.4.1からH29.3.31まで)、2016.6.13(第13回理事会)
3 オリンピック・パラリンピックマーク等を無断でもくしは不正に使用したり流用したりすること。ゲリラマーケティングとも言われ、スポンサー料を支払わずに大規模なスポーツイベント等に関連づけて行う宣伝活動などの行為で、主催者の知的財産権を侵害するだけでなく、公式スポンサーからの投資にダメージを与え、大会の運営に支障をきたす可能性がある。
4 最終案は7月下旬に発表される予定。