1. 空室率上昇によりNOI減少(価格下落要因)
金融大手など多くの多国籍企業がロンドンに拠点をおいている。しかし、EUを離脱した場合には、税負担の増加やEU域内での金融サービス提供に支障をきたす可能性があるため、ダブリンやパリ、フランクフルトなど他のEU加盟国の都市へオフィス移転を検討すると報じられている。金融街であるシティなどロンドン中心部では、今後オフィス空室率が上昇していくことが予想される。オフィスワーカーも減少し、国民投票の争点となった移民も抑制されることが見込まれることから、人口の伸びも緩やかになるだろう。これは、住宅やその他の不動産セクターにも悪影響を及ぼす。
2. 不確実性の高まりによるリスクプレミアム増大(価格下落要因)
英国民はEU離脱を選択したものの、EUとの離脱協議がどのように進むのか不透明な点が多い。本当に英政府が離脱申請を行うのかも、まだ定かではない。また今回の投票結果を受けて、フランスやオランダなどでEU離脱の機運が高まる可能性があるなど、EUの将来に対して大きな不安を投げかけることになった。これは世界経済の不確実性を高め、離脱協議の不確実性とあわせて、リスクプレミアムを高めることになるだろう。
3. ポンド安によるリスクプレミアム増大(価格下落要因)
英国不動産市場の特徴の一つとして、海外投資家が多いということが挙げられる。海外投資家が為替ヘッジを行っていない場合、ポンド安が進むと評価損が発生する。これはリスクプレミアムを高める結果となり、海外投資家からの資金フローを減少させる要因の一つとなることが見込まれる。また短中期的には想定しづらいが、英国経済の先行きに対する不安感が払拭されてくれば、ポンド安は海外投資家にとって英国不動産の割安感を高め、不動産価格を押し上げる要因となることもあろう。
4. 経済成長鈍化に伴う期待NOI成長率低下(価格下落要因)
今後、離脱協議に伴う不確実性により投資が減少する可能性があり、新たな貿易協定の内容によっては貿易が減少することが見込まれるため、英国経済の成長が鈍化することが予想される。また景気後退に陥るとの見方もある。前述の英国財務省の試算ではEU離脱した場合、残留した場合と比べて、GDPは3.6%低下し、深刻な影響が生じた場合にはGDPが6.0%低下するとしている。なお英国の不動産商慣習として長期契約が一般的で、賃料改定は値上がりのみとする場合も多い。したがって、賃料が低下しNOIが押し下げられるまでは時間を要する可能性があるが、期待NOI成長率が低下し、不動産価格を押し下げることになるだろう。
他にも不動産市場に影響を与える要因として、英中銀の利下げ期待やリスク回避によりリスクフリーレート低下や、信用市場の混乱に伴って借入コストが増大する可能性も考えられる。但し、前述の要因と比較して、その影響は限られるだろう。
これらの要因は、今後の離脱協議に依拠するところが多い。離脱協議のプロセスは依然不透明で、長期間にわたることが予想される。不確実性が高いため、どれほどの影響となるか予想するのは困難である。一方、今回の国民投票の結果が英国不動産市場にとってマイナスに影響することは間違いなく、今回の国民投票が英国不動産市場の転換点となる可能性がある。
1 HM Government(2016), "HM Treasury analysis: the immediate economic impact of leaving the EU", May 2016