ここでは、2015年7月の前回のレター以降のUFR水準に関係する動きを報告する。
1|全体の状況
現在のユーロに対する4.2%というUFRの水準については、基本的には2008年の金融危機以前の金利状況等のデータに基づいて設定されている。具体的には、長期のフォワードレートを説明する経済ファクターとして、安定性や信頼性等を考慮して、(1)期待インフレーションと、(2)短期実質金利の長期平均の予測、に基づいて定められている。ユーロについては、過去のデータ等に基づいて、「長期期待インフレ率2%と短期実質金利の長期平均2.2%の合計」として4.2%としている。
これに対して、その後の欧州市場における金利低下等の状況を考慮すると、この水準はかなり高く、保険会社のソルベンシーについて過度に楽観的な見方を与える形になっているので、見直しを検討すべきではないか、との意見が出されていた。
さらには、各国あるいはグローバルベースで、UFRあるいはUFRに相当する概念を使用するケースにおいて、実際にユーロに対して4.2%を下回る水準設定を行う動きも見られた。
一方で、保険業界を中心に、現在のUFRの水準は、EIOPA(欧州保険年金監督機構)において時間をかけた広範囲にわたる議論と分析の結果として決定されたものであり、2016年1月のソルベンシーIIの導入という欧州の保険監督における最大の改革を直前に迎える段階において見直しを行うことは、制度の安定性と信頼性に影響を与えることになることから適切ではない、との意見も出されていた。
以下、この章において、現在のUFR水準に対する批判的な意見及びUFR(に相当する概念)水準の見直しの動きを紹介し、次の
4において、これらに対する保険業界の意見を紹介する。
2|ESRB(欧州システミックリスク理事会:European Systemic Risk Board)の批判
ESRBは、2015年6月の欧州の金融システムにおけるリスクと脆弱性に関する議論において、「ユーロに対して4.2%に設定されているUFRの水準について、現在の低金利環境において、あまりにも高く、人工的に保険会社の負債の値を低めている。」と批判していた。さらには、「現在の市場の期待や最近の学術研究によれば、短期実質金利の長期平均2.2%は0.5%から1.0%ポイントは楽観的である。」としていた。「4.2%のUFR水準を用いることで、20年超の割引率が市場金利に比べて、大きく歪められ、このことが保険会社に間違ったインセンティブやループホールを与えることにもなりかねない。」との懸念を示していた。
UFRの水準に対するこうした批判に加えて、ESRBは、ソルベンシーIによる水準との16年間にわたる移行措置の存在やボラティリティ調整による割引率の引き上げについても触れ、市場金利との乖離に対する懸念を示していた。
こうした懸念に基づいて、ESRBは、UFR水準の引き下げ、より市場金利に近い補間法の採用、移行期間の早期化等を検討することを監督当局に促してきている。
3|DNB(オランダ中央銀行:De Nederlandsche Bank)の動き
DNBは、2015年7月14日に、年金基金の負債評価のためのUFRの算出方法を変更し、その結果として、7月15日から適用するUFR水準を4.2%から3.3%に引き下げる、と公表した。
この決定は、UFR委員会(Commissie UFR)が2013年10月に内閣に提出した勧告書
2に基づいている。これに基づくUFRの水準については、前回のレターでも触れているが、概ね以下の方式で決定される。
(1)過去10年(120ヶ月)の20年フォワードレートの平均に基づいてUFRを定める移動平均方式(moving average forward rate)を採用
(2)UFR手法の開始時点を20年とするが、これをLLPとは言わず、FSP(First Smoothing Point)と命名
(3)フォワードレートはUFRに収束していくが、決してそれには到達しない(収束期間は無限)、FSPの後の市場データも利用し、それへの加重度合を逓減させていく手法を採用
なお、FSP後のイールドカーブを補外するために、LLFR(最終流動性フォワードレート:Last Liquid Forward Rate) を決定する必要がある。UFR委員会の勧告では、LLFRは、FSP後のフォワードレートを加重平均し、以前のLLFRを加重平均することで決定することとしていた。DNBは、今回の最終決定に当たり、この平均化を取りやめてよりシンプルにする、こととした。
いずれにしても、これはあくまでもオランダにおける年金基金の負債評価のための割引率であり、保険負債評価のためのソルベンシーIIにおけるUFRとの整合性が必ずしも問われるという位置付けのものではない。
ただし、DNBは、保険負債評価において、ソルベンシーIIによるソルベンシー水準を遵守するために、4.2%のUFRに依存している保険会社については、その配当支払を禁止している、とも言われており、現在の4.2%のUFR水準に懐疑的なスタンスを見せている、と理解されている。