有力候補はグレース・ポー上院議員、ジェジョマル・ビナイ副大統領、マヌエル・ロハス前内務・自治相、ロドリゴ・ドゥテルテ現ダバオ市長であり、4名での混戦となっている。直近の世論調査(SWS調べ)によるとポー氏とビナイ氏が国民の支持を集めているが、ポー氏は12月に選挙管理委員会から「10年間の国内居住」や出自が不明で「生まれながらのフィリピン人」とする候補者要件を満たしていないと決定され、このまま失格となる可能性が高そうだ。
注目されるのは腐敗・汚職の問題だ。フィリピンは、2009年のTI世界腐敗認識指数(Corruption Perceptions Index)
2が世界139位と、ビジネス環境が最悪の水準との評価が下されていた。このため同国は日本や米国からの投資を呼び込むことができず、マレーシアやタイなど周辺国と比べて成長が遅れていた。しかし、2010年に就任した現ベニグノ・アキノ3世大統領が汚職撲滅とインフラ整備に取り組み、2014年にはTI世界腐敗認識指数がタイと同じ世界85位まで改善した。結果、海外からの投資が増加し、成長によって増加した税収をインフラ開発に充てて更なる経済成長へと繋げていった。また同時に財政再建も進めたことからフィリピン国債の格付けが2013年5月に「BBBマイナス」の投資適格級(米大手格付け会社S&P社)を取得した。このような経済の好循環によって現在フィリピンは高成長期(2012-14年の実質GDP成長率は平均6.6%増)を迎えていることから、新大統領候補の腐敗・汚職に対する姿勢は海外投資家から高い注目が集まっている。
アキノ大統領が後継を指名されたロハス氏は現在の汚職撲滅・経済改革路線を引き継ぐものと期待されているものの、支持率は3位と伸び悩んでいる。一方、支持率トップのビナイ氏はマカティ市長時代の汚職疑惑を多く抱えているほか、低所得者へのばら撒き型の政策が目立つ。外資系企業を呼び込み、雇用を生み出すことで所得格差を是正する現政権の経済政策の継続性を同氏に求めるのは難しそうだ。また支持率4位のドゥテルテ氏は、ダバオ市の治安改善のために犯罪者を闇で殺害するといった強硬的手段を取るような人物であり、国政や外交など一国のリーダーとしての資質に疑問が投げかけられている。
アキノ政権の汚職対策をはじめとする改革路線が継承されるのか。フィリピンは、近年労働コストが高まった中国に代わる生産拠点としてベトナムとともにチャイナ・プラスワンとして日系製造業から熱い視線を集めているだけに、5月の大統領選挙には注目だ。
アジア新興国で産業高度化に成功した国は、いずれも積極的な外資誘致政策を通じて地場産業を育成してきた。現在、外国企業がビジネス環境の改善を特に期待する国は、フィリピンに限らずミャンマーやインド、インドネシアなど多く存在している。しかし、各国はビジネス環境整備の重要性を認識しつつも財政的な余力の乏しさや総論賛成・各論反対の規制改革など歩みは遅い。従って、選挙結果はもちろんのこと、その後の経済政策の進捗を見ていくことも重要だろう。
1 RCEPは、東アジア地域包括的経済連携(Regional Comprehensive Economic Partnership)の略。ASEAN10カ国(ブルネイ、カンボジア、インドネシア、ラオス、マレーシア、ミャンマー、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナム)+6カ国(日本、中国、韓国、オーストラリア、ニュージーランド、インド)が交渉に参加する広域経済連携。
2 Transparency Internationalが公表。2014年のTI世界腐敗認識指数は、日本が15位、韓国が43位、マレーシアが50位、タイが85位、中国が100位、インドネシアが107位。